第42話 転職からの天職
翌日、仕事へ行く瑞菜を送り出して俺はネットで求人サイトを見ていた。
自分の年齢が、就職にとっていかに厳しすぎる足かせになるのかを思い知った。
「30歳過ぎると、バイトなんかはほぼ、ダメになるんだな……」
ペットショップ、トリミングサロン、動物病院、動物園などなど、動物に関わる職業を一通り目を通す。
そういった仕事をするのに有利になるような資格なんかにも目を通していく。
「うーん、プリンター欲しいな、買いに行くか……いや、ネットで買うか……あ、クレジットカードがない……ふむふむ、コンビニ払いもあるのか」
世間からズレている事は自覚しているが、何も知らない自分に腹が立つ。
瑞菜との未来の為にも、出来ることはしていかないといけない。
今日瑞菜は職場の裏にある動物病院の先生に話を聞いてくれると言っていた。
実際になんの資格も職歴もない俺が、動物病院なんてところで役に立てるのだろうか?
「まずはプリンターだな」
どうにも画面だけだと頭に入ってこないんだよね……
近くの家電量販店へ向かい、適当にプリンターを購入する。
えっちらおっちらとプリンターを抱えて帰宅する。
「これ、自転車も買おうかな……」
要領の悪い自分が情けなくなってくる。
ささっとパソコンにプリンターを接続して幾つかのサイトをプリントアウトする。
ささっと、なんて見栄を張ったが、実際には一時間位かかっている。
途中嫌になってリフクエを起動したくなったがぐっと我慢する。
瑞菜が仕事している間は我慢しようと俺の中で決めた。
動物業界における給与は非常に安い……
俺は自分の通帳を眺める。
そこには9桁の数字が書かれている。
何度も複数の銀行に分けたり、投資など分散しないと銀行に何かあった時に1000万くらいしか戻らなくなると言われていたが、そのまんまにしている。
「これも、どうにかしないと……」
こんなことを相談できる相手もいない……普通に行けば銀行か?
幸せボケ仕掛けていた脳みそに、たくさんの問題点が立ちふさがっていく。
「いや、ここで問題に気がつけたことが大事だ」
自分自身に活を入れる。
ふと気がつくとお昼の時間だ。なにはともあれ食事だ。
なんか、店長の弁当が久しぶりなような気がする。
ちょっと楽しみだ。
新しく買った洋服に袖を通すとなんとなく気分も明るくなる。
毎日新しいことが起きるので世界は刺激的で輝いて見える。
先ほど見えてきたもやもやも、超えるべきハードルと自分を奮い立たせてくれる。
物事は考え方一つでここまで変わるのかと我ながら感心する。
「いらっしゃい」
店長の変わらぬ挨拶。その隣には瑞菜がいる。
小さく手を振ってくれたので振り返す。店長が何か小声で話して瑞菜に肩パンを貰っていた。
「あ! 先生! ちょうどよかった!」
レジの瑞菜の声に振り返ると白衣姿の恰幅のいい男性が立っていた。
この人が瑞菜の言っていた動物病院の先生なのだろう。
体つきは大きいが、笑いジワのはっきりでた優しそうな顔だ。
「ん? 瑞菜ちゃん私に用事かい?」
「あ、えーっと。先生のところって今求人ってしてますか?」
「え! 働いてくれるの!? ホントに!! 助かる!
猫の手でも借りたい! 猫の世話もあるから猫は駄目だけど、頼む!」
凄い食いつきようだ……
「ちょ、ちょっと先生どうしたんですか? 落ち着いてください……」
「ほんとにやばいんだよ、スタッフ子供できて辞めちゃったし、もう一人はお母さんが倒れられて地元に帰ってしまって……もうね、私は倒れてしまいそうなの、お願い。犬の散歩とか裏でお世話の手伝いだけでもお願いします!」
「た、大変ですね……えっと、それは男性とかでもいいんですか?
あとは年齢制限とか資格とか……」
「いらない! 大丈夫男性大歓迎! おじさんでもこの際おじーさんでもOK!
ちゃんと社保も厚生年金も有給も、週休も完全2日! 残業代も出す!
頼みます!! お願いします!」
「あ、えーっと。琉夜さーん」
「は、はい!」
「彼? 彼が働いてくれるの?
どれくらい入ってくれるの?」
「えーっと、今仕事してないんで……いくらでも……」
「うおー! 神の助け!!
よし、今から面接しようさぁ行こう!
あ、お弁当いる? 店長一番いいの彼に包んで、さぁ行こう!」
と、言うわけで。そのまま面接。そして今は何しているかというと……
「うわー、琉夜さん凄いですね。ハクは誰にも心を開かないのに……」
「あー、親父にも昔言われました、お前は動物に気持ちが悪いほど好かれるって……」
グールグル言いながら手に擦り寄ってくる猫のトイレと食器を回収してご飯と綺麗なトイレを戻す。
扉を閉めても名残惜しそうにナーナー言いながら扉に身体を擦り付けている白猫、病院の子でハクちゃんと言うらしい。
「ハクの世話がもう終わったの!?」
「先生すごいですよ琉夜さん!」
「ちょ、ちょっとさ診療来てくれない?
今来てる柴犬の子、結構怖がりさんだからいつも押さえないといけないんだけど、女の子だと大変で……」
「あっ、はい」
診察室に入り、ドキドキしながら犬を待つと、俺を見つけた柴犬が腹を出して完全降伏状態で擦り寄って手を舐めてきた。
「「奇跡だ……」」
先生と飼い主さんがシンクロする。
なんと、俺は天職を見つけてしまったらしい。
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