第38話 お出かけ

 リフクエ午前プレイの部を終えてヘッドセットを外す。


「やっぱりダンジョンは効率がいい……みるみる強くなる」


 午前中のプレイだけでとうとう10階層に到達した。

 11階層からはケアの話では難易度が跳ね上がるらしいので、きちんと装備を整えてから突入する事にする。

 現状で現実的な最高の装備は予想では午後の探索が順調なら用意できる。

 その次の装備もたまに売られているが、金額が跳ね上がる。

 現実的ではない、簡単に言えば一回10万集まるとこで総額100万の装備の次が1億みたいな感じだ。

 そのランクの装備からは、スロットと呼ばれる付与システムが使えるようになるのと、素材が希少な物を大量に使用するからだそうだ。

 このあたりから、鍛冶を使えるキャラも仲間にいないと金策がしんどくなるそうだ。

 まだ冒険しかしてないが、これからさらに作成系の楽しみも広がっている。

 リフクエは奥が深い。


 そんなことを考えているとドアがノックされ瑞菜が入ってくる。


「お邪魔しまーす。お昼ごはん行こー」


 うーん。自分の人生において絶対に言われなかったと思っていたセリフランキング上位に位置する言葉だなぁ……


「お疲れ様ー。と、いっても知っての通りお弁当しか知りませんゆえ瑞菜におまかせになります……お世話になります」


「お世話しますよー。琉夜君でも入りやすくて、私も食べたいイタリアンを食べに行きたいと思いまーす!」


 確かに完全なイタリアンと言うものは、長いこと食べていない。

 今日は瑞菜さんにお任せだ。


 街を女性と腕を組んで歩く。日々俺の人生とは縁のないと思っていたイベントが目白押しで頭がおかしくなりそうだ……


「んふふふふ~」


「瑞菜は随分とご機嫌だね?」


「えー、だって、自分が男の人とこんな風に外を歩く日が来るなんて思ってなかったんだもん。いやー、こんなに楽しいものならもっとはやく琉夜に無理矢理でも話しかければよかった」


「あー、以前の俺だと凄く失礼な対応しそう……」


「確かに、店長とかもめげずに声かけてて、一回私、流夜に怒ろうとしたことがあったんですよ。そしたら店長に止められて、彼はいいんだって……」


「店長には足を向けて眠れないです……」


「でも、よかった。事情も知らずに怒鳴りつけたりしないで、そうしたら致命的なヒビが入っていたんだろうなぁ……」


「うーん、たぶん無機質にスミマセンって謝って何も変わらなかったかなぁ……」


 あの頃の俺は本当にどうでも良かった。何もかもが……

 

「ま、今が幸せならいいじゃない?」


「そうだね、俺は今、幸せだよ」


 傍から見たら完全なバカップルだ。しかも二人の関係は一見するとおっさんとそのおっさんに騙されている女性ってバランスだ……

 無職だしね、そのおっさん。

 しっかりしないとな。


 自分の住む街なのに、俺はほとんど知っていなかった。

 最低限の生活用品を買う店と、惣菜屋、そしてアパートを往復していただけだった。

 一本脇道にそれると、小さなお店が並ぶ商店街があることも、たくさんの居酒屋や食事をする場所が並ぶ、結構有名な通りがあることさえも知らなかった。

 

「ここは店長も好きなお店なんですよー」


 連れてきてもらったお店は、少し古めかしく雰囲気のあるお店だった。

 お店の軒先ではハーブやバジル、ミニトマトを栽培している。

 ほのかに香る草木の香りが好ましい。

 カランとなる扉を開けて中に入ると、店内は思ったよりも広く、そして落ち着いた雰囲気のお店だ。


「こんにちはー。二人ですー」


「あら、瑞菜ちゃん、とあらあらまぁ……」


 少しふくよかな女性が瑞菜と俺を見てすぐに奥に引っ込んでしまった。

 しばらくするとドタドタと足音がして凄く恵体のコックスーツを来た男の人が出てきた。


「おお、おおお。瑞菜ちゃんが男を連れてくる日が来るとはな~……」


「ちょっとシェフ興奮しすぎですよー」


「いーや、俺は遊蔵から頼まれてんだ、変な虫がついたら頼むってな……」


「へ、変な虫ではないです……こんにちは……」


「……ふぅん。まぁ、瑞菜ちゃんが選んだんならそういうことなんだろう」


「えへへへー」


「あ、ごめんなさいね。こちらの席にどうぞ」


「ありがとーおばさん」


 窓際の明るい席に案内される。昼時には少し早いためにまだお店には俺達だけだった。


「ここはランチセットが絶対的にオススメなのです」


 メニューを見ると確かにランチセットは豪華で1200円とお得だ。

 二種類あったので1つずつ注文する。


「すごい、心配されてたよ?」


「ここのシェフは店長の幼馴染で私のもう一人のお父さんみたいなものだからね」


「え、もしかして……?」


「ふふん、琉夜を紹介したかったの。でも味は絶対に保証するから!」


 なるほど。でも俺は嬉しかった。

 自分を瑞菜が大切に思っている人に紹介してくれるということは、俺のことをしっかりと考えてくれているということなんだから。

 

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