第37話 アップデート
リフクエ内にダイブすると、残念ながら昼だった。
それでも街には冒険者が溢れて、皆アップデート内容を確認したり、ゲーム内の友人たちと楽しそうに談笑しながら次の目的地を決めたりしていた。
なんとなく集合場所になっているギルド内も賑わっていた。
いつものテーブルが空いていたので腰をかける。
アップデートもそうだが、リアルでのアップデートぶりも異常すぎて、なぜかゲーム内でその変化を噛みしめる。
「ミーナは瑞菜で、瑞菜は俺の彼女で……俺は卒業したのか……」
実感はわかないが、記憶を呼び起こせば甘美な時間が蘇る。
現実世界だったらちょっと失礼と、コソコソとカーテンを閉めて鍵を閉め始めてしまうだろう。
「まだ、夢でも見ているようだ……」
「何を夢見ておるのかね青年よ」
「ラックさん! 今からですか?」
「リュウヤおにーちゃんこんにちはー!」
「ケアさ、ちゃんも来たんですね!」
「あれー、みんな一緒だー」
「お、ミーナ嬢も今来たのかね」
「はいー! 楽しみですね新しいパッチ!」
「ケア、どうなんじゃ? 新しいパッチは?」
「発売してこんな短期間にこれだけ大きな変化をもたらすパッチが来るなんてほんとに意外~。それだけプレイ人数も増えて要望も増えたんだろうね~。
廃プレイヤーだけじゃなくて、感覚……! そうだ、おにーちゃーん何かご飯おごって~」
ケアに強請られてオムライスを注文する。
全員の視線がケアに集中する。
「ちょ、ちょっと~いくらケアちゃんが可愛いからってみんな見すぎー」
「凄い……集中すると匂いを感じる!」
「ほのかにあったかいのかのぉー? 何かに触れてる感覚はあるな!」
「こらじじい! 人が食べようとしてるものに指を突っ込むな!」
カオスである。
結論としては、凄くぼやっとした感覚が実装されたに過ぎない。ということだ。
「まぁ、あんまり鋭敏にしたら実際の身体への影響が怖いよね……」
「そうじゃなー、杖を握っていても、なーんか掴んでるーって感覚じゃな」
「それでもリアリティは増しますね! 生きてるって感じで!」
ミーナは大はしゃぎだ。
うーん……外のことがあるから、ミーナまで可愛く見えてくる、不思議。
じーっと見ていることに気がついたミーナは無言で駄目だよーってジェスチャしてくる。可愛い。
「ん? なんか? 変な気配がせんかったか?
急にイラッとしたぞ?」
「い、いや!? と、特に無いんじゃない?」
ラックの恐ろしいほどの鋭さ……気をつけよう。
リアルとゲームをゴチャゴチャにして碌な事はないという強い強い予感がする。
とりあえず、金策にも成長にも、街の近くのダンジョンが有効なのは前回ではっきりとわかっている。しばらくはこのパーティでダンジョンに篭もることになるだろう。
そしてある程度の装備を整えて更に奥の探索をしていく。
こういう少しづつ成長を感じられる過程は心が踊ってしまう。
「ワシも魔法の代わり具合が楽しみじゃわい」
「あのダンジョンは比較的火魔法に弱い敵が多かったですよね」
「噂によると10階層を超えると難易度が跳ね上がるみたい。オニーチャン達まだ無理だけど、向かう時は気をつけてね」
ケアねーさんのありがたいアドバイスだ。
ダンジョン内だとほとんど何も変わらずに戦闘をこなしていく。
強いて言えばラックの魔法が気持ち強くなったような気がした。
「あんまり劇的に変化は感じないのぉ」
「そりゃそうだよ、もともと一確なんだから……」
「確かに……」
もっと高難易度な戦闘のときには頼れるだろう。
そして、ある程度散策を終えて外に出た時にアップデート最大の変化を知ることが出来た。
「うわーーーー! すごーーーい!!」
「これは、見事じゃな……」
そとはすっかりと暗くなっていたが、2つの月がピーナッツみたいに繋がったリフクエ内の次が輝き、幾千幾万の星星が空に瞬いていた。
「妙に明るいけど、安全対策なんだろうねぇ」
「あと、星が輝きすぎかも、……でも綺麗……」
もともと夜は安全対策で導入されていなかった。それを解決するために、月と星々を煌々と輝かせたのだ。
結果として、夜ではあるものの昼間に近い視野は確保できている。
「便利じゃし、夜っぽい雰囲気というだけで風景の感じ方もまるで違う。
これで世界は2倍の美しさを手に入れたのじゃな」
ラックの言い回しがとても気に入った。
この世界は美しい、陽の光に照らされた世界、月の光に映された世界。
共に美しい。
「いいね、これからは倍楽しめるんだね」
「その楽しみを増やすためにも、おにーちゃん達はきりきり働いて武器防具を揃えてどんどん奥深くへと進むのだー♪」
ケアちゃんの言うとおり、今回のダンジョン探索で得たお金で装備のうちまずは武器から調達する。
攻撃力が上がれば殲滅が早くなり、金策効率も上がっていく。
武器が変わると狩りは非常に気持ちよくなってくる。
そして、狩りに没頭すればお金が貯まる……
俺達は、しばらく来る日も来る日もダンジョン探索と自分たちが強くなる感覚に酔いしれることになっていた。
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