第29話 新事実
なんか、ここ数日で自然と呼ばれた気もするけど、あ、でも瑞菜さんから聞いたかもしれないか。
でも、今日の発言は……
「あの子も、君と似ていると思う」
俺は店長の発言を思い出す。
店長は、俺の過去を知っているのか……? なぜ?
「いろんなことが起きすぎだろ……全部、こいつと出会ってからだな……」
俺はリフクエの空き箱を手に取る。
「第二の人生……か……」
このゲームと出会って、ゲームの中の新しいリュウヤってキャラの人生だけじゃなくて、リアルの琉夜の人生も変わってきた。しかも、急激に……
「凄いな、お前は……」
ふとスマホの時計を見るとすでに11時を越えていた。
いつの間に! 俺は急いで外に出る準備をする。
アパートの外に出て川沿いの大通りまで歩いて行く。
今日もいい天気だ。少し歩くだけで汗ばんでくる。
大通り沿いのバス停で時間を調べると間もなくバスは到着するようだ。
バスなんて乗るのは何年ぶりだろう、このバスは運賃を先に払うシステムだ。
小銭もちゃんと用意してきた。
思ったより不安はないが、結構無茶なことをやっている自覚はある。
ここ最近の変化で、少し調子に乗っているのかもしれないな……
すぐにバスはやってきた。
停車したバスの扉が開き乗り込む。
運転手も別段自分に興味はなく、正面を向いたままだ。
ちょっと、助かる。
俺は準備していた小銭は投入口にジャラジャラと落とす。
表示される金額が目的地と一緒なことにホッとして、そのままバスの奥へと歩いていく。
客は少ないが、スキンヘッドの男が乗ってきたことで一瞥してくる。
俺が下を向いて歩き出したきっかけは、頭の傷を皆が嘲笑しているような気持ちになったからだ。
しかし、この間、鏡を見ると、自分の中で凝り固まっていた傷跡は、驚くほど目立たないものだった。
今も、さっと見て、皆興味をなくして窓の外を見たりスマートフォンの画面に目を戻している。
少し高鳴りかけた心臓が落ち着いていくのがわかる。
吊革につかまりながらバスに揺られながら目的地に向かう。
以前の自分なら考えられなかった行動だ。
ホームセンターはそんなに遠くはない。
バスは目的の駅に到着する。別の人が降車ボタンを押してくれたので、停車したバスから俺は降りる。
久しぶりに見慣れない土地までやってきた。
僅かな距離だが、ただただ同じ毎日を繰り返してきた自分にとっては冒険だ。
「新しい街にたどりついたぞー」
小さな声でつぶやく。
リフクエ脳が発揮される。
ホームセンターはファミリーレストランやゲームセンター、スーパー銭湯、ボーリング場などの敷設が同じ敷地内に存在しているので、平日の昼でもそれなりに人が出入りしている。
過去はあんなに煩わしかった人混みも、気の持ちよう一つでここまで変わる。
なんとも思わない。
「行くか……」
出たとこ勝負だったが、驚くほど問題なかった。拍子抜けだ。
俺はホームセンター内で目的の場所を探して歩く。
スマホで買うものを見ながら目的のものを探す。
まるでRPGみたいだな。と一人おかしくなっていた。
「この座椅子、いまのよりいいなぁ。これを使ってもらおう」
瑞菜さんに使ってもらうことを考えながら買い物をする。
他人のことを考えながら行動するのは結構心地よかった。
目的の品を全部買った頃には、結構な大荷物になっていた。
「予定ではここでラーメン食べるつもりだったけど、これは厳しいな」
座椅子にクッションとかさばるものに、さらに割れ物の食器。
これは車で買いに来る量だな。
なんとか持てるけど、結構きつい。
昼ごはんは諦めてバス停へと向かってあるき出す。
両手の荷物が歩道を大きく専有してしまい、すれ違う人が大きく避けて歩いて行く。仕方がないことだけど、それが、俺という存在を避けているような気持ちになると、少し気持ち悪くなる。
自分では気が付かなかったけど、少し車道側に寄ってしまっていた。
自分の持つ荷物が車道に少しはみ出ているような状態だ。
プッ
と、背後から短くクラクションを鳴らされてしまう。
俺は慌ててペコペコと頭を下げる。
「あれ? 琉夜君?」
聞き慣れた声だ。
ワンボックスの車から下りてきたのは店長だった。
「どうしたの、珍しいね? その荷物は……もしかして帰るとこ?
乗ってきなよ、バスで帰るつもりだったんでしょ?」
矢継ぎ早に質問を受けて少しうろたえてしまう。
「す、すみません。で、でも迷惑じゃ……」
「大丈夫! なんか顔色も悪いし、乗りな乗りな!」
「すみません、すみません」
店長さんの好意に甘えることにする。
荷台も広かったので俺の持つ大量の荷物も簡単に載せることができた。
「弁当の配達の帰りなんだよ、店はうちのと瑞菜ちゃんが回してくれている。
珍しいところで会うからびっくりしちゃったよ」
「は、はい……実は……今晩瑞菜さんと飲もうって話になってて……」
ウソを付くのも失礼かと思って正直に話すと、店長さんは物凄く嬉しそうにノリノリになった。
「おおお! なんだよ! いいじゃんいいじゃん!
いやー、俺は嬉しいよ! 勝手に二人は子供みたいに思っていたから!」
そこでふと俺は疑問に思っていたことを聞いてみた。
「そう言えば、店長さん。俺のこと、知っていたんですか……?」
「ん……? あれ? 言ってなかったっけ?」
「え? なんか聞いてましたっけ?」
「んー? 話してないかもなぁ……まぁ、話していても、あの頃の琉夜君は、聞こえていなかったかもなぁ……
俺の名前は、大垣
「……! 大垣先生の!!」
「そう。兄貴から君の話は聞いている。
君がうちのお店をりようしだしたのは本当に偶然だったんだけど、君がうちの店の常連になってから、ずっと見ていたんだよ」
「……全然……知りませんでした……」
「兄貴にもこちらから動くことは絶対にしてはいけないと言われていたからね、だから琉夜くんと話せるようになって本当に嬉しいんだよ」
「……ありがとうございます」
ずっと見守ってもらっていたと言う事実が嬉しかった。
同時に、あんなにも長い時間その視線に気がつく事ができなかった自分が、腹立たしかった。
そんな気持ちが入り混じって、俺は静かに助手席で涙を流した。
店長は家まで黙って送ってくれる。
「ちゃんとつけろよ」
サムズアップで変なことを言って店に戻っていった。
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