第24話 夢じゃない

 ピピピピピピ……


 アラーム音が聞こえる。

 いつの間にか寝てしまっていた。

 満腹というやつは睡眠薬のように俺の身体を眠りへと誘ったようだ。


 スマートフォンを見ると時間は5時半。

 7時にリフクエで待ち合わせているので、この時間に惣菜屋に行ってお弁当を買って、色々と準備してinする予定でアラームをセットしていた。


 寝る前はグダグダ色々考えていたけど、美味しいごはんと楽しい時間。あれが夢だったと考えようと切り替えた。


「さて、顔洗って買いに行くか。夜の弁当は何かなー……」


 気がつけばフンフン♪ と鼻歌交じりで準備をしている。

 我ながらよほど楽しかったんだな。

 顔を洗い外に出ようとすると、なんとチャイムが鳴る。

 ピンポーンと。


「は、はい?」


「あ、あの織先ですけど、ごめんなさい」


「え、は、はい!」


 ちょっと勢い良く扉を開けてしまって瑞菜さんをびっくりさせてしまう。


「きゃっ! は、早いですねー」


「あ、今丁度弁当買いに行こうかと……」


「やった! ナイスタイミング! 実は包丁忘れていってしまっていて、夜ご飯作るのも面倒になったのでお弁当にしないかなー? って聞きに来たのです!」


「あ! すみません包丁気が付かなくて!」


「あ、それはいいんです。それで、もしよければ一緒に買いに行って、一緒に食べませんかーって……駄目ですか?」


 見上げるようにおねだりっぽく聞いてくる瑞菜さん。

 まって、可愛すぎるだろ。キュンと来た。


「こ、こちらこそ、嬉しいです!」


「よかったー!」


 おおう、なんという素敵な満面な笑み……

 

「というか瑞菜さんはなんでそんなに良くしてくれるんだろう?」


「え? あんまり良くしているつもりはないですよ?」


「え?」


「え?」


 ……思っていたことが口をついて出ていた……


「す、すみません。思ったこと口から出てました……」


「……ぷっ! なんですかそれ! フフフフフ、やっぱり琉夜さんってホントは面白い人なんですね!」


「す、すみません……」


「な、なんで謝るんですかー」


 そのあと瑞菜さんは何かのツボに入ったらしく、笑いが止まらないみたいで、歩いていれば止まるからってことで惣菜屋さんに向かった。

 しかし、どうしても時々吹き出してしまうらしく、迂回して河原沿いの道を行くことになった。


「いやー、琉夜さんと話せるようになってよかったですよー。

 面白い面も知れたし!」


 なんか妙に嬉しそうな瑞菜さん。


「面白いですかね? 俺……」


「前よりずっといいですよ! 前は心配しちゃったもん。

 ふと気がつくと店に居て、すーーーっとお弁当買って帰っていくし」


「ああ、なんか、前はそうだったと思います。すみません」


「も~すぐ謝るの悪い癖ですよー」


「あ、ごめんなさい」


「アハハ、やっぱ面白い!」


 なんか、悪い感じはしない茶化し方をされてしまう。

 コロコロと変化する表情がとても可愛らしい。


「瑞菜さんは、明るくて、可愛くて、なんか眩しいですね」


 どうやら俺は混乱しているようだ。何を口走っているんだか……


「な!?」


 ビタッ。と瑞菜さんが動きを止めて、まるでトマトみたいに耳まで真っ赤になる。


「な、な、な、何を急に! あ、だ、駄目ですよそういうことだれにでも言っちゃー! あーびっくりしたなーもう!」


「だ、誰にでもなんて、俺、話すの店長と瑞菜さんぐらいしかいないし……。

 なんかすみません、昼も手を触ってしまったりして、こんなおじさんが気持ち悪いですよね……」


 もうぐっだぐだである。俺……


「ち、ちがっ! うれしいですよ! 手だって、ドキドキしたし……じゃなくて、おじさんじゃないし、私だって、もうおばさんだし……じゃなくて、あーーーーーもう!」


 39歳男。絶賛混乱中である。

 その後もワタワタとしている瑞菜さんに気の利いたこと一つ言えずに惣菜屋さんに着いてしまった。


「と、とりあえず入りましょう!」


「は、はい!」


 一歩、店に入ると時間帯もあって店内は混み合っていた。

 日替わり弁当の周りも人だかりが凄い。

 店長さんは俺たちを確認するもレジを回すので手一杯みたいだ。


「凄いですね、こんなに混むこと珍しいのに、ちょっと行ってきます」


 瑞菜さんはカウンター越しに店長と二言三言交わすと、お店の奥に入っていく。

 すぐにいつものエプロン姿で出て来る。

 俺の方を見て、ちょっとだけ。ってジェスチャーをしてくるのでうんうんうんうんと頷いておく。


 俺はその間に弁当を分析する。

 カウンターに瑞菜さんが入ったことで、購入客の流れが改善して自然と店内の客の流れもスムーズになっていく。

 今日は……ハンバーグ……決まりだろー!

 思わず心の声が叫び出す。

 絶対ハズレないもん。これだよ。

 手に取ろうとした時、今日の日替わりが二種類ある事に気がつく。

 オーソドックスなデミグラスソースのハンバーグ弁当と、チーズトマトハンバーグ弁当。

 

「琉夜さん、私、チーズトマトハンバーグの方にするんで買っといてください」


 弁当の補充に来た瑞菜さんが耳元で囁いて通り過ぎていく。

 ヒソヒソとした話し方が、少しくすぐったくて色っぽくってドキドキした。


 瑞菜さんの弁当がそっちなら、俺の弁当は決まった。

 俺は2つの弁当と、今日のスープ。コーンスープを2つ。それにサラダを手に取りレジへと並ぶ。


「琉夜君、また瑞菜ちゃんと一緒なんだな、弁当も2つ……

 そっかそっか、うんうん」


 店長が満面の笑みでお会計をしてくれる。


「ちゃんとつけるんだぞ?」


「店長何いってんですか! そんなんじゃないですよ!」


 瑞菜さんが店長に肩パンチを食らわしている。

 正直この時は何のことかわからなかった。


 怒涛のお弁当ラッシュは落ち着きを取り戻し、瑞菜さんも臨時の仕事を終えて戻ってくる。


「ごめんなさい! 今日は私がおごるんで!」


「いやいや、いいですよ! お疲れ様でした!

 瑞菜さん、実はちょっと時間が無くて、急いで帰りましょう!」


「え、あ、こんな時間! ほんとにごめんなさい!」


 すでに時間は18:15を指していた。

 二人で少し早足で帰宅する。

 

 

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