第15話 接点
「生き直し……か……」
口からこぼれた何でもないセリフだったが、ミーナさんはそこに反応した。
「リュウヤ君は、生き直したかったの?」
「え?」
突然の質問に思わずどう反応していいかわからなかった。
「ううん! いいや、忘れて!」
「あ、う、うん」
曖昧な返事になってしまった。
生き直したかったか、と聞かれればこのゲームを始めた時は迷いなくそうだ。と答えたと思う。
じゃぁ、今はどうかというと。
このゲームに出会って、外の、という方も変だけどリアルの生活も変わった。
変わりすぎたと言ってもいい。
世界に色がついて動き出した。
生活に匂いがついて、味がついて、感覚がついた。
自分以外にも人がいることを強く認識したし、一人じゃないって気がついた。
なんだか、リアルでも生き直しているような気持ちになっている。
「……ヤ君、リュウヤ君?」
「あ……ああごめんごめん、考え事してた。どうしたの?」
「もう。戦闘開始するよーって聞いたの」
気がついたらギルドの依頼対象のミドルラットが目の前にいた。
ここに居るラットはこっちから攻撃しなければ攻撃してこない。
「OK、じゃんじゃん倒そう15匹だよね」
「そうそう、よーし。いっきまーす」
と、言っても。すでに俺たちはレベル13になっている。
このラット、レベル1でも相手できる。
戦闘を仕掛けるミーナさんの弓攻撃で、戦闘が終わっちゃう。
「なんか、ミーナさんにお世話になりっぱなしみたいでごめんね」
「うーん……」
「どうしたのミーナさん?」
「それ……」
「???」
「ミーナさんって言うのよそよそしい。ミーナでいい」
なぜかちょっと不機嫌なミーナさん。
「え、あ、はい。その……ミーナ?」
「うん! そしたら私もリュウヤって呼ぶね!」
なぜか嬉しそうだ。
それからは順調に狩りを続け、クエストもドンドンこなしていく。
俺と、……ミーナは無事に念願の新しい武器を手に入れることができた。
「おおおお、武器っぽい!」
俺は村の外でスチールソードを子供のようにはしゃいで振り回していた。
「よっ! かっこいいよリュウヤ!」
ミーナが茶化してくる。
ミーナの背中にも銀色に光る弓が背負われている。
「レベル30にするとFランクからEに免除されるんだよね?」
「まだレベル15だし、この感じだとクエストポイント貯めたほうが早いかもね……」
「早く拠点は欲しいけど、地道にやるしかないかぁ……」
「そうだね、……それにしても、もう半日かぁ。
流石に少し疲れたね」
「確かにね。食堂で少し休憩しようか?」
「そうだね、そうしよ!」
一旦村に戻って、食堂へ入る。
実は初めてだ。
「いらっしゃい。注文はどうしますか?」
コンソールからオランジジュースを選ぶ。ミーナも同じものを頼む。
「……流石に……味は無いんだね」
飲んだような仕草がしてジュースの量は減るが、味は感じない。
「そうだね、なんか変な感じ」
「……そういえばさ、生き戻りたいか、って聞いたじゃん?」
「え、ああ、うん。でもいいよ、無理して答えなくて」
「もし、迷惑じゃなかったら聞いて欲しい」
俺がそういうとミーナはまっすぐと俺を向いて座り直して真剣に聞いてくれる。
なんで、俺がこんな話をしようと思ったのかは分からないが、相手がミーナだったから。多分そうなんだと思う。
「俺は、このゲームに出会うまで、生きてなかったんだと思う。
今、味のないジュースを飲んだけど、リアルでも俺はそんな風に毎日を過ごしてきたんだよね。
地面を見て歩いて、味のない食事を食べて、寝る。その繰り返し。
最初は、そんな人生を生き直したい。そう思ってリフクエを手に取っていたんだと思う、いや、そうなんだ。
でもさ、このゲームやって、新しい世界にワクワクして、楽しくてしょうがなくて、それでリアルの世界に戻ったら。
美味しかったんだよね……」
「美味しかった……?」
「食べるものは美味しいし、世界は綺麗だし、人は……温かかった。
そんな当たり前のことを、俺は、長いこと忘れていたんだ。
最初はこのゲームの中に新しい人生を求めていたかもしれない。
でも、今は、リアルの世界も……楽しくなったよ」
「そう……なんか、私と似てるね……」
「そ、そうなんだ……」
「うん。だから、だからかなぁ……なんとなく、リュウヤと一緒にいると安心するんだと思う」
笑顔のような、少しさみしいような表情。
他のどんな素敵な笑顔よりも、オレの心を揺さぶった。
「ごめんね、変なこと聞いて!
リュウヤ! これからもよろしくね!」
まっすぐと俺に手を伸ばしてくるミーナ。
俺はその手をしっかりと握り返す。
「うん! 俺もミーナと居ると楽しいよ! これからも末永くよろしくね!」
「ぷっ……アハハ! なにそれ、プロポーズみたい」
「い、いや! そ、そういう意味じゃなくて……」
「うそうそ、からかっただけ、リュウヤは可愛いとこあるなぁー」
「な、なんだよそれ……」
落ち着け俺、中身は男だぞ。
「そ、それに、ぺったんこな女性は奥さんにはまだ早いからな!」
言ってすぐに気がついた。いらんこと言った。
「な、最低! ばかばかばーか!!」
鋭い右ストレートが俺の顔を何発も撃ち抜く、ダメージはない。
「……中の人は……結構あるもん……」
「ん? なんか言った?」
「うっさいばーか! ほら! クエスト受けてさっさとレベル上げるよ!
キリキリ働いてくださいねリュウヤ様!!」
明細をバンと顔に叩きつけられた。
ここの支払いは俺ってことね。はいはい……
その日は時間が許す限り二人で狩りを続けた。
本当に夢中になって狩りに没頭した。
そして、残り時間も少なくなる。
「ねぇ、今日は午後も入る?」
「あ、うん。たぶん。どうして?」
「私ね、今日休みだから、7時半くらいに一緒に入って、街へ行かない?」
「おお、いいね! 町へ行けばもっと依頼も多くなるんだよね!」
「そうそう! それに、ダンジョンが近くにあるの!」
「うおお、行こう行こう! 7時半ね、出来る限りピッタリ入るよ!」
「やった! それじゃぁ、また、後でね……」
ミーナはログアウトしていく、俺もそれに続いていく。
「街かぁ……楽しみだなぁ。って、ホントにまだ5時なんだな……
すげぇ、すげぇよリフクエ!」
19時半のログインに向けて早速行動を開始する。
まずは、トイレだ。
そして食料確保。そして身を清めてログインだ!
俺は、完全にハマっていた。
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