2.

「はぁーい、授業をはじめますよーう。皆さぁん、席についてくださーい」


 チャイムといっしょに、新島愛美ラブみ先生の呼びかけが、机に突っ伏したわたしの後頭部を飛び越えていった。


「はぁい、静かに! 田村くんはちゃんとお弁当箱しまいなさい。二宮くん、教科書きょうはちゃんと持ってきた? 佐々木君、おしゃべりはやめて! ……あら、三栗山さんはどうしちゃったの? お昼寝タイムかしら?」


 くすくす笑いが、周囲で起きる。

 知らない。いまは他人の視線なんて、どうでもいい。

 お願いだから、ほうっておいて……。


「三栗山さん? 三栗山はわわさーん? ……ちょっと、誰か起こしてあげて?」


 ななめ後ろから、誰かが背中をどすっとペンで突いてくる。

 たぶん幼馴染の梅子だ。

 どすっ、どすっ、どすっ。

 いたい。容赦がない。

 盗み見したら、怖い顔をした彼女と目があってしまった。

「わかってるでしょ」とでも言いたげに、ゆっくりとうなずく梅子。


 ちぇ、わかったよもう。

 わたしはしぶしぶと顔を上げた。


「……どうしたの、その顔。具合でも悪いの?」

「なんでもないデスー」


 横目でチラチラ見てくる隣の男子を無視してそう言うと、先生はちょっとだけ迷ったような顔をしたあと、すぐいつものスマイルに戻った。


「体調が悪くなったらいつでも言ってね」


 辛いのは体じゃなくて心ですぅ、という言葉を飲み込み、わたしは「はぁい」と、ちょっとだけ元気を取り戻した感じの声を出してみる。先生はにっこりする。


 先生は優しい。詮索はしないけど、心配はしてくれる。

 そういうところ、わたしは好き。


「じゃ、授業を始めますねー」


 机にダイブしたい気持ちを我慢しながら、わたしはのろくさと教科書を開く。そういえば彼に告白しようと決めたのも、この授業がきっかけだったんだっけ……。

 なんてことを思い出すと、うう、また胸がずきずきする。


「じゃ、教科書開いて。まずは前回の復習からでぇす!」


 心を無にして、わたしはページをめくった。




『第二課 体外生殖装置ダイスの仕組み』




 

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