堅香戦3

「--と言うことがあったんだけど、私まずいこと言ったのかなあ」

「よくわかんない」

「もう真面目に答えてよ、リツ」

 あれから、普通に授業をうけて普通に帰宅した。ただ、あの時のナオさんの様子が気になってリツに今日のことを話して今に至っている。

「だって、どこから突っ込めばいいかわからないんだもん」

「じゃあ、はじめから突っ込んでいってよ」

「えーめんどくさい」

 すぐそう言う。

「いいから私に1から10まで教えてよ」

「まず、男の人と話せないって話をなんでナオに聞く?」

 まさかの本題ではなくそこから!?これでは、一晩では話が終わらなくなってしまう。

「ごめんなさい、大人についての話からでお願いします」

「それだって言いだしたらキリがないでしょ。どういう人を大人と呼ぶにふさわしいかなんて、尊敬する人がいるか、嫌いな大人がいるかでも変わってくるわけだし定義なんてないんだから」

「でも、こういうことができないと大人じゃないって話はよく聞くよ」

「そんなの自分が納得しない限り聞かなくていいと思うけど」

「そういうもの?」

「そういうもの。さも、『これが常識です』っていう人間はただ自分をよく見せたいのよ。『僕はできているけど君は出来てないでしょ、だから僕はすごいんだ。それに比べてできていない君は大人という枠組みから見ても足りていないんじゃない?』を遠回しに言っているだけ。つまり、聞くだけ無駄」

 あまりにも殺伐とした物言いに戦々恐々としているが、たしかにそういう見方もできる。結局は、自分の納得した大人像に向かって進んでいくしかないということだ。こうあるべきは相手の理想論であって自分の基準じゃない。

「難しいなあ」

「まあ、こればっかりはゆっくり考えるしかないわね。でも、前から変な奴だとは思っていたけどまさか『大人』が地雷だったとは。しかも、柄にもなく臭いセリフまではいちゃって」

「地雷?」

「ランドマイン」

「いや、そういうことじゃなくて意味を教えて」

「要するに触れちゃいけないところ」

「ええっ!どうしよう…嫌われたりしないかな」

「気にしなくて大丈夫でしょ。もしそれが原因で嫌われるんだとしたら人として小さすぎ」

 そういうと、どこからか引っ張り出してきたスナック菓子を食べながらファッション誌を開いて読み始める。

 人が不安になっているのに暢気なものだ。

 まあ、リツらしいといえばらしいからいいや。

 それよりも。

「そういえば、さっき変わった奴ってナオさんのことだよね。なんで?」

「なんでって。おかしさの塊じゃない。それを言いだすと、有里花と雅人もおかしいけど」

「全然わからない。」

 確かに、男の人にしては料理や裁縫が得意だったりしてほかのクラスの男子とくらべると違うけど変わっているというほどではないし、有里花ちゃんも雅人君はいい人だしおかしいところなんてほとんどないと思うけど。

「いやいや、おかしいところだらけよ。まず、ゲームを受け入れすぎ。普通の神経のやつがいきなりわけわからないゲームに巻き込まれたら多少は動揺する。初日の真田と村瀬のやり取りはあの二人だからってのもあるかもしれないけどあれが普通。でも、あいつが私たちに言ったこと覚えてる?『お昼一緒に食べよう』よ。おかしいでしょ」

「いや、それはもしかしたら気を使ってくれてかもしれないんじゃ」

「そう、そこ。次の日とか別の日ならまだしもゲームに参加させられているっていう実感がわいた日にできることじゃない」

 うーん、そう言われるとそうだけどナオさんだからといわれると納得できてしまう。そのせいかあまりおかしいとは思わない。

「あまりおかしいとは思わないけど……」

「まあ、いいわ。他にも気になることがあるの。有里花や雅人のミオに対する反応よ」

「それも全然わからないんだけど」

「本当に?」

 リツが確認するように聞く。

 私は素直に「本当に」と答える。するとリツは大きなため息をついてからこう言った。

「ミオは裏人格のはずなのに受け入れすぎだとは思わない?」

「それなら、最初のほうに思ったことある」

「でしょ。みんな、それなりに裏人格とは距離をとるの。わたしたちみたいに勝負のルールとして4日間ずっと一緒にいるルールじゃなかったらこうしていない。今でも、朝の登校するとき以外はほとんど話さなかったかもしれない。でも、ナオも含めた三人は初めから当然のようにミオを受け入れている。それ自体がおかしいと思わない」

 本当にその通りだ。最近はそれが当たり前になっているけどあの4人ははじめからそういう関係だったように見える。特にナオさんとミオちゃんは双子の姉弟みたいだ。

 もしかしたら、そういう部分に共感が持てたからナオさんと仲良くなりたいのかもしれない。

「すごいね!リツ。探偵みたい」

「あっ、ありがとう。でも、近い」

 興奮のあまりおでことおでこの間がわずか十センチほどしかなかった。

「ねえ、ほかにも気になることとかないの」

「あるといえばあるけどそんなキラキラした目で聞いてもらうほどのことじゃないわ」

 なるほど、ちょっとした疑問だから期待されると緊張しちゃうのか。

 じゃあ、こんな感じかな。それなりに期待してない顔。

「いや、期待した目で見ないでとは言ったけど死んだ魚のような目をしてほしいわけではないから。普通にしてて」

「ねえ、どんなことが気になってるの」

「なんかすごい生き生きした目で見ているけどさっきよりはましだからいいわ。ナオの話し方が…」

「話し方が…」

「最初に会った日と最近じゃあ違う気がする」

 えーっ。

「いや、たしかにショボいけどお願いだからそんな死んだ魚のような眼をしないでーっ!」


 今日で4日目。

決断の時まで残り5日。

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