堅香戦2
勝負二日目の中休み、有里花ちゃんが前にナオ君に教えていた中庭のベンチにナオ君と二人っきりでいる。
偶然にも、移動教室でばったり会って「ちょっと話が聞きたい」と言われて今こうして二人でいる。
「どう、リツとの生活はなれた?」
そう質問しながらナオ君は飲み物をコップに注いで渡してくれた。
「いただきます」といってすぐにコップに口をつける。
今日は麦茶らしい。
五月にしては暑い今日にはもってこいなチョイスだ。
こういうところから女性として負けている気がする。本来なら逆なんだろうけど、残念ながらその日の気温を予想することもそれに合わせた飲み物選びもできない。完敗だ。
「はい…まあ。まだ始まって二日ですし、基本的にはツツジと変わりませんから」
ナオさんは「そうか」とつぶやいた。
「……」
「……」
沈黙がながれる。
なにか話題を探さないと、なにか、なにかないかな。
そう思って、内心あたふたしている間にナオさんが口を開いた。
「そういえば、ツツジはいつもあんな感じな?ちょっとやる気なさげというかめんどくさそうというか」
「そうですね。中学二年生の時からあんな感じです」
「そうなんだ」
「……」
また沈黙がながれる。
完全に「会話が止まる」負の連鎖に入ってしまっている。さっきからずっと話題を探してくれているナオ君には申し訳ないと思う。けど、これ以上話を膨らませられない。
あまりにも、コミュニケーション能力が低すぎて自分に腹が立つ。ツツジやリツならそんなことないだろうに。
「さっさん」
「はっ、はい」
「やっぱり、まだ男の人と話すの苦手?」
「いや、はい」
「どっちだよ」
と、言いながら笑いかけてくれた。
「そうですね、まだ慣れないです。いつも、クラスの子と話すときもツツジか有里ちゃんか有里花ちゃんがいてくれないとダメです」
「それでいいと思うよ。あの三人ならうまく話も回せると思うし話題選びもうまいから話しやすいでしょ」
「それはもう。ただ……」
「ただ?」
「このままでいいのかなって…」
「ダメなの?」
そう聞かれると少し悩んでしまう。普段の生活には何の支障もないし、話せないといっても全くというわけではない。ただ、距離感がうまくつかめないというかなんというか…。
そう、よそよそしい。
向こうから歩み寄ってきてくれているのにこちら側が一方的に距離をとっている感じだ。
「ダメだと思います。やっぱり、向こうも好意を持って接してきているわけですし」
「でも、さっさんはその人と仲良くなりたいわけじゃないんでしょ」
「それは、まあ……」
「じゃあ、そのままでいいんだよ。もし、どうしても変わりたいんだったら家族じゃない身近な人にやってみたらいいよ」
そうか、そのままでもいいんだ。
「ナオさんは大人な人なんですね」
「俺が?まさか」
「物事を冷静に判断しているところとか大人の人って感じがします」
「なるほどね」と小さくナオさんはつぶやいた。心なしか、寂しそうな顔?になっている気がする。
そしてこう続けた。
「だとしたら、それは違うよ。俺は大人なんかじゃない、見よう見まねで大人っぽいことを真似してできたつぎはぎだらけの人間だ。そういうのは大人じゃなくて中途半端な奴だよ」
「それって……どういう」
キーンコーンカーンコーン
話を断ち切るようにチャイムが鳴る。
「じゃあ、教室に戻ろうか」
「それよりも今の話は」
「忘れていいよ。だけど、気をつけてね。表情も話す内容も含めて外見だから、外見に騙されないようにね」
「じゃあ」、と行っていってしまった。
あの話はいったい何だったんだろう。
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