銃声のその前は

「はあ、なんで俺がこんなめんどくさいことを…」

 大きなため息をつく。

 正直、人前で話すのは得意じゃないんだよなあ。

 なんか、さっきもものすごい上から目線で話してたもんなあ。俺だったらいやだよ、そんな偉そうなやつ。

 そもそも、苦手な俺がこんなことするのが間違いなんだよ。

 なんで四月にいいって言ってしまったんだろうか。


ー四月ー


 四月初め、明日から学校が始まるので健康的な生活をしようと心がけていたのに呼び出された。別に家を抜け出すことには何の抵抗もないし、慣れている。

 それに警察に補導されることを畏れているわけではない。

 彼女と会っている間は見つかることはない。それも、物理的な意味で、だ。

「あら、早かったわね」

 と、呼び出した本人は暢気なものだ。

 燃えるような赤髪に整った顔立ち、高身長で出るところは出てしまるところはしまっている。創作物から飛び出してきたみたいだ。

 それに、色気もある。

 破天荒な性格で変人でなければ間違いなく惚れていた。残念ながらそうじゃないし、彼女の残念さを知りすぎてそういう気持ちは沸いてこない。

「どうしたの、いきなり呼び出して」

 長引かせるだけ無駄なので早速本題に入る。

「いま、めんどくさいと思って本題に入ろうとしているでしょ」

「そんなことはないよ。ただ、話は長いなと思うけど」

「相変わらず素直だねえ。いいことだ」

 なぜか、嬉しそうだ。

「まあ、どうせ異能でも使って私のことをストーキングしているから言いたいこともわかっていると思うけど、第三回・・・始めるよ」

「おれは、そんなことのために異能を使ったことはないし使うつもりもない」

 そう返事はしたものの[第三回]と[ストーキング]と聞いて思わず顔をしかめる。

「まあ、そういやそうな顔をしないでよ。今回は緩くしてるから。それに、私だって前回のことで反省してるの」

「第三回をすることはわかったけど、それがどう俺と関係あるの?まさか、報告だけじゃないよね」

「もちろん。……まあ、ほかに報告する人もいないのだけれど」

「うん?最後のほうなんて?」

「なんでもなーいよ。でっ、一つやってほしいことがあって」

 彼女が俺に頼み事なんて珍しい。あと、ちょっとだけ嬉しそうだ。

 まあ、悲しそうな顔をされるよりはずっといい。

「でっ、やってほしいことって?」

 つい彼女の表情を気にしてしまったが、話を本題に戻す。

「えーっとねぇ。監督役をお願いしようと思って」

「はい?」

 ……

 沈黙。

「ぷっ、あははははっ。そんな、鳩が豆鉄砲食らった顔しないでよ。あははははっ。」

 そんなに笑うことだろうか。たしかに、びっくりしすぎて口をポカンと開けてしまっていたがそこまで笑われると正直不愉快だ。

「そんなに笑うか」

「あー、ごめんごめん。やっぱり、君に頼んで正解ね。君は私とプレイヤーのあいだを取り持ってくれていればいいから」

「わかった。ほかにやることは?」

「いや、もうないよ。いいゲームにしよう」

 そういって、彼女は手を差し出す。もちろん、それにこたえるように手をだして握手する。

「じゃあ、また詳しい話は後日。よろしくね」

 そういうと、彼女は夜の闇に消えていった。

「今回のゲームは、たぶん大丈夫だな」

 そうつぶやいた。

 四月の初めにしては心地の良い暖かい風が吹く。

 それは、これから始まる青春をかけたといっても過言ではないゲームの始まりを祝福するようなそんな風だった。


ー現在ー


 なにかっこつけたこと言ってんだ。何が「それは、これから始まる青春をかけたといっても過言ではないゲームの始まりを祝福するようなそんな風だった。」だよ。その前のわかったの部分から間違いなんだよ。

 なんで気づかないんだよ。

「はあ」

 またため息が出た。ああ、幸せが逃げていく。

 まあ、このゲームに巻き込まれている時点で幸せからは程遠いよな。

「なーに、ため息ついてんだよマーリン」

「痛っ」

 相変わらず、背中を強くたたかれた。

「あと、学校でマーリンってプレイヤーネームで呼ぶのはやめてくれ。俺もアーサーって呼ぶぞ」

「別にいいよ。俺はソシャゲーでもその名前にしているから、それに今はあだ名としてそれで過ごしてるから」

「それ、恥ずかしくないの?」

「……」

 恥ずかしいのかよ。

「まあ、そんなことよりもいい加減教えてくれよ。ゲームマスターの居場所をさ」

 アーサーは首に腕を回し、ささやいた。

「何度も言っているけど俺は知らない。連絡はいつも向こうからの一方通行だ」

「なら、力づくで聞くさ」

「氷漬けにしてやるよ」

 自分ができる最大のにらみを利かせる。

 

 バンッ


 今、銃声がなったのか?

「はあ、やめたやめた。じゃあな」

 そういうと、アーサーは行ってしまった。

 それよりも、早く銃声のした部屋に行かないとたぶんさっきの説明に使った部屋だ。

 アーサーといいゲームマスターの彼女と言い俺の周りには気分で動くやつが多すぎる。

 頼むから何も壊さないでくれよ。

 そう思いながらさっきの教室にむかった。

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