『ぼくは知っている』

山本てつを

第1話

 ある夏休み前の昼放課。僕の友達は言った。

「テレパシー能力が欲しいな。人の考えが読めると、便利だと思うんだ」

 確かに。人の考えが読めるのは、便利だ。

 しかし、何にも一長一短はある。

 能力者の僕だから、分かる事かもしれないが。


 彼女が転校してきたのは、中学二年生の時だった。

 一目惚れだった。端整な顔立ち。大きな瞳。長いまつげ。意思の強そうな眉。

 あの日から、僕は彼女だけを見つめ続けていた。

 テレパシー能力で、彼女の思考を読んだ。

 罪悪感は無かった。

『彼女の事をもっと知りたい』気持ちはそれだけだった。

 彼女の理想の男になって、彼女の愛情を僕だけのものにしたかった。

 彼女の理想に近づくため、僕は勉強にもスポーツにも力を入れ、日々の生活にも気をくばった。

 あれから三年。

 彼女と同じ高校へ進学し、僕はまだ、彼女の理想へ努力を続けていた。

 しかし、彼女の心が僕へ向く事はまだ無かった。


 僕は知っている。彼女の好みの全て。

 彼女だけを見つめ続けてきたから。

 僕は知っている。彼女の好きな花。

 僕は知っている。彼女の好きな食べ物

 僕は知っている。彼女の好きなファッション。

 僕は知っている。彼女の好きなスポーツ。

 僕は知っている。彼女の好きな動物。

 僕は知っている。彼女の好きなテレビドラマ。

 僕は知っている。彼女の好きなタレント。

 僕は知っている。彼女の好きな作家。

 僕は知っている。彼女の好きなアーティスト。

 僕は知っている。彼女が好きなクラスメートの男。

 僕は知っている。その男も、彼女が好きである事。

 僕は知っている。彼女が今日、その男に告白しようと、心を決めている事。


 僕は知っている。

 彼女だけを見つめ続けてきたから。


── END ──

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『ぼくは知っている』 山本てつを @KOUKOUKOU

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