この世界の展開は全て読みきった

@AoNoSeKaI

第1話 当たり前の世界の中で


部屋の壁は全て本棚。そしてその本棚を埋め尽くす大量の漫画本。


これが何度目かわからないスヌーズ機能は虚しく部屋に鳴り響く。


やっと目覚めた部屋の主人は携帯の時刻表示を見て深いため息を吐いた。


遅刻である。


彼の名は読破圭介(どくはけいすけ)。漫画をこよなく愛し、この春から大学生になる見た目は普通の青年だ。


「さて、今日はどんな非日常が僕を待っているのやら」


何やら意味深に、しかしただの厨二病をこじらせた様な発言をしながら圭介は大学へ向かう為に家を出た。


故郷を出て、一人暮らしを始めた圭介が住むアパートは大学まで徒歩3分。家賃は大学生の一人暮らしにしては少々高いが、大学まで曲がり角が1つもないところが圭介は気に入っている。


キョロキョロと辺りを見渡しながら圭介は歩く。

そして彼はある一軒の住宅に目を止めた。


「あそこか」


圭介はその住宅の前まで行くとサッと身構えた。

その瞬間、身構えた圭介の胸にパンを咥えた女性が勢いよく飛び込んできたのである。


身構えていなければ圭介自身も尻もちは免れなかっただろう。


圭介は女性に「大丈夫ですか?」と一声かけた。


「え、あれ?あ、いやっ、ありがとうございます!」


女性は何が起こったのか理解しないまま、まるでぶつかってくることを予見していたかの様に自分を抱き抱えている男性に懐疑の目を向けながら感謝の言葉を述べた。


「いいんです。わかってたことなので」


「わかってた??あっ!ごめんなさい!私の名前は角野結衣(かどのゆい)です!こ、この春からあの大学に…」


落ち着かない性格なのだろうか、と圭介は分析する。


「あぁ、僕も新入生なんですよ。僕の名前は読破圭介。よろしく」





登場人物体質とは現代の医学でも解明されていない(というより圭介が勝手に名付けた体質なのだが)未知の体質である。


その症状は恐ろしく、漫画の世界で起こるような非日常に日常的に遭遇するというものだ。


では何故彼は遅刻するのか。

それは単純明快。パンを咥えた遅刻少女と曲がり角でぶつかるからである。


その漫画的展開に巻き込まれるが故に彼は遅刻せざるを得ないのである。


「本当に厄介な体質だ。大学初日から遅刻とはね…」


そうボヤきながら圭介はベッドから起き上がり、携帯を手に取った。


母親からの遅刻するなよというメッセージがいたたまれない。


故郷を出て、一人暮らしを始めた圭介が住むアパートは大学まで徒歩3分。家賃は大学生の一人暮らしにしては少々高いが、大学まで曲がり角が1つもないところが圭介は気に入っている。


だがしかし…。


「ぐわっ!!」


家を出て1分。圭介の右肩に衝撃が走った。その2秒後に、ドスンという鈍い音が聞こえてきた。


「何故こうも毎日僕にぶつかれば気が済むんだ?」


圭介は目の前ですっ転んでいる女に




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