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「リンリンさん! 私もいっしょに踊らせてください!」
呼びかけられたリンは、ひとりだけ時間停止したように固まっていた。
無理もない。ずっと大人しいと思っていた友達が芸能人だったんだ。
それも今しがた自分が踊っていた、キャラクターを演じている声優だったんだ……。
まさしく、ご本人登場ドッキリ……! その驚きは計り知れないだろう。
リンはしばらく抜け殻のようになっていたが、「……あの、リンリンさん?」と目の前で手を振られたりして、ようやく正気に戻った。
「あ、う……うん!
わかった! シキ……じゃなかったハルカちゃん! ふたりで逆転しよっ!
……ファイブ・シックス・セブン・エイッ!!」
リズムコールとともに、奇跡のオンステージが始まった。
人気声優ハルカの生歌にあわせて、人気コスプレイヤーのベルとともに踊る。
静止画ではないハルカがファンの前に姿を現したのは、これが世界で初めて。
しかも生歌とダンス付きというフルコースだ。
シキのダンスはぎこちなかったが、そこはリンがカバーしている。
しかもリンはコーラス役も買って出ていて、シキの歌をしっかりと引き立てるハーモニーを奏でていた。
♪今日はテレビで ナウシカやるんだ
♪見たいけれど 徹夜作業が待っている
♪でもでも そんなときには緊急メンテ
♪再開未定の 告知出す
♪メンテ メンテ 緊急メンテ
♪アクセス殺到 予期せぬ不具合
♪ごめん寝てたと 舌を出す
♪侘び石配れば ごまかせる
♪メンテ メンテ 緊急メンテ
♪確率詐欺も なんのその
♪だけど明けない 夜はない
♪明けないメンテは ないはずだけど
♪メンテ メンテ 緊急メンテ
♪メンテ明けたら サービス終了
♪ファイナルメンテナンス
こ……これは……アニメ版『ファイナルメンテナンス』の主題歌……!
死に体だった俺の得票数は、天才医師にかかったかのように目に見えて回復していく。
これには敵さんもさぞかし泡を食ってるだろうと思ったが、
「まさかまさか、あのハルカちゃんが福の神チャンネルに来てくれたよ!
票数も、三十郎くんが一気に大逆転だ……!
すごいよね! このままじゃ負けちゃうよ!
……あれっ? あれあれ? でも、よく考えてみて!
DJフクちゃんが勝ったら……水びたしになったハルカちゃんの姿が見れるってことだよね……!?」
また、俺の票を奪うようにリスナーを誘導しはじめやがった……!
俺の身体が動くのであれば、ブン殴ってやりたいところだったが、それには及ばなかった。
ヤツの作戦は完全に裏目に出る。なんたって相手は女神と呼ばれているほどの少女。
我らが唯一神をプールに落とすなんて絶対に許さないと、かえってフクオの票離れが加速してしまった。なかには殺害予告をする書き込みまで出始める。
これはさすがに予想外だったようで、DJフクちゃんの含み笑顔も消え去った。
「くっ……ううっ……! こ、こうなったら……! せ、先生! こっちに来て!」
何を思ったのか、ソファの後ろに立っていたフミミ先生の手を引っ張り、有無を言わせず隣に座らせた。
「い……いまからこのババア先生の巨乳をうpしまぁ~っす!」
最低の手に出やがった……!
「ええっ!?」
この宣言には、シキの歌声も、リンの踊りも止まった。
コメント欄にはシキの唄っていた歌の歌詞が占領していたのだが、ババア先生コールに塗り替えられる。
すでに世界中からババア先生呼ばわりされているフミミ先生。
いろんな言語でオールドティーチャー呼ばわりされ、頭がいいだけに言葉の意味も理解してしまったんだろう。
真面目な先生にとってはカルチャーショックだったのか、我を忘れたようにぽかんとしていたが……ブラウスのボタンに手をかけらたことによって、ハッと我に返っていた。
「えっ……恵比寿フクオさんっ!? 何をしているのですっ!?
あなたはそんな生徒では……きゃっ!?」
フクオはポケットから取り出したバタフライナイフを、司書の顔に突きつけていた。
「ごちゃごちゃうるせえっ、ババア!
うちのババアと同じように、黙って俺の言うこと聞いてりゃいいんだよっ!
うちのババアよりぜんぜんイイ身体してっから、うまくいけば勝てるぜ……!」
もはやあの偽善を装う笑顔は欠片もない。
血走った目を、これでもかと剥いている。
しかし……リッコといい、コイツといい……開部の儀の敵って、おかしなヤツが多すぎだろ!
ちゃんと精神鑑定しとけよ!
フクオは舌なめずりをしながら、ババア先生のブラウスの胸元にナイフを差し入れる。
ブチブチとボタンが弾け飛ぶと……ベージュのブラと、谷間をつくる柔肌がチラ見えした。
「い……いやっ……! やめて!」
身体をのけぞらせて、逃げようとする先生。
しかし、それがかえって隠れ巨乳を見せつける結果となり、リスナーは熱狂した。
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