017

 右のページには角の生えた馬のイラストがあり、その下には、


 現在のレベル:-4・ユニコーンレベル

 次のレベル:-3・ミジンコレベル

 レベルアップ特典:デレノート使用時の寿命減少が50割から40割に

 レベルアップ条件:同性の知り合いをひとり作る

 ファーストキス難易度:日本国籍初のアメリカ大統領になるのと同等の努力を要する

 卒業難易度: 卵のマンボウが大人になるのと同等の運を要する

 備考:ただし対象を家族とした場合、土下座だけで達成可能


 とあった。


「ユニコーンってなんだよ?」


「今の旦那のモテレベルやな。高いほどモテモテって意味や」


 ユニコーン……一角獣と呼ばれる角の生えた馬のことで、架空の生物だ。


 ファンタジーロールプレイングゲームとかでよく出てくるんだが、伝説のモンスターとか、聖獣とか、かなりいい扱いをされていてダントツに人気がある。


 俺のモテレベルがそれというのであれば……もうモテモテといっていいんじゃないだろうか。


「これは、かなりイイ線いってるってことか?」


「普通やと『人間レベル』やな。

 どんなにモテへんヤツでも『猿レベル』から始まるんやけど……。

 旦那はそこからさらに二つも下やね……『ミジンコレベル』の下が『ユニコーンレベル』や」


「微生物以下!?」


「まぁ、ある種の揶揄やね。処女という幻想にとらわれ、非モテを貫く姿は滑稽すぎてもはや空想の生き物レベルってことや」


「幻想と空想の権化みたいなお前に言わると、ショックでかいな……」


「まあ気を落とさんと、ほら、次のミジンコレベルになればデレノートに名前を書いたときの寿命の取られ分が50割から40割になるさかい」


 そう言われて思い出す。

 もともと俺たちは、デレノートを使ったときの寿命減少の話をしてたんだった。


「たしかに50パーセントじゃなく、50割って書いてあるな……。

 なるほど、レベルアップすれば40割になって、デレノート使用時のコストも減っていくのか」


 ネトゲのスキルみたいだな、と思った。


 それでふと『ファイナルメンテナンス』のことが気になり、机の上にある液晶モニタをチェックしてみる。

 アップデートは相変わらず遅々として進んではいない。


 このゲームのアップデートはいつもこんな感じで、かなり時間がかかるんだ。

 こりゃ今晩もつけっぱなしかな……と考えつつ、視線をノートに戻す。


「このレベルアップ条件にあるとおり『同性の知り合いをひとり作る』を達成すればミジンコレベルになれるんだな?」


「うぃ、その通りや! もうわかってると思うけど、このレベルアップ条件をこなしていくことがハーレム王になることにも繋がるんやでぇ!」


「同性の知り合いって……男の知り合いって意味だろ? ハーレムに関係あんのか?」


 すると、テュリスは立てたひとさし指をワイパーみたいに左右に動かしていた。


「チッチッチッチッ、わかってへんなぁ旦那。

 男友達ってのは異性攻略に欠かせないパートナーなんやで?

 例えるなら旦那の電気鼠がワイやとすると、男友達は大谷育江みたいなもんや!」


「意味がわからん」


「とにもかくにも男友達が大事なのは、星の数ほどもある恋愛ゲームが証明してくれとるやろ!

 ナンパも1対1より2対2のほうが成功率高いんやでぇ!

 それに最悪ヒロイン全員からフラれたとしても、最後の受け皿になってくれるんや!

 心のキズもペロペロと舐めてくれて……もしかしたら他のトコも舐めてもらえるかもしれへんやろ! ウホッ!」


 説明の後半部分は記憶の外に追いやるとして、前半部分はたしかにそうかもしれない、と思った。


 ゲームに限らず恋愛モノに男友達は付きものだ。

 女の子の情報をくれたり、陰からアシストしたりしてくれるんだ。


 でも……友達を作るだなんて……かなり面倒くせぇ。

 スキーができると聞いて参加したツアーで、雪かきからやらされるような気分だ。


「ハーレム王っていうから、てっきり女へのアタックから始めると思ったのに……男からかよ……なんか、気が進まねぇなぁ……」


 すると、妖精はわざとらしいほど大きく嘆息しやがった。


「あのなぁ……男の友達くらい、これを機会にわざわざ作らんでも、普通はひとりかふたりはおるもんなんやで?」


「うるせえなぁ、いねえもんはしょうがねぇだろ」


「なんでおらへんの? ウサギの逆で、寂しくないと死んでまう体質なん?」


「そんなわけあるかよ……ただいろいろあって今の状態になっちまっただけだ。どいつもこいつも俺に話しかけてこねぇし」


「旦那から話しかければええことやろ!」


「なんで明らかに格下のヤツらに、俺が歩み寄らなきゃいけねぇんだよ!?」


 俺は素直な気持ちを吐露していることに気づいた。

 これもヤツの鱗粉を吸っちまったせいか。


「旦那が屋上で、実の父親から『最大のぼっち』って言われとったけど、その理由がわかったような気がするわ……」


「ああもう。わかった、わかったよ! まずは男友達を作りゃいんだな!?」


 俺はノートを乱暴に閉じ、机に叩きつける。


「あれ、もうええの? まだ説明してへん項目があるんやけど……」


「ああ、もうたくさんだ。残りも失礼なことしか書いてなかったからな。それにいまの時点だとノートに名前を書くことすらできねぇし」


「あ、ちなみにノートを使うための寿命は旦那のやなくてもええよ。

 いまは50割やから、5人の人間を生贄に捧げれば旦那自身の寿命は減らさずにノートの力を使えるで」


「……ひとりの女を惚れさせるのに、殺人鬼になるつもりはねぇよ」

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