亡き英雄へのスノウフレーカー

永久部暦

プロローグ

プロローグ 時代の伝説:大賀蓮の如き過去

 真っ黒なキャンバス。

 そこに垂らされた幾千もの赤い点。

 モニターに映るその光景に、男は口笛を吹く。


「どこまでも広い宇宙にこれだけの敵とは、満員御礼だねえ」


 男はそう言ってコックピットのシートにもたれかかった。微妙に固い、長時間座るのには心地の良いシートだ。

 そして、彼は両手に一つずつ持っているグリップを正眼に構える。

 すると、彼の乗る翡翠色の人型機械のアームがその動きと連動し長剣を構える。


「さあて、始めるとしますか……。俺のワンマンライブ!」


 男が力の限りフットペダルを踏み込むと、スラスターが全開し、人型機械が宇宙を駆け抜ける。

 凄まじい速度で宇宙を疾風はしると、それまで正体のわからなかった赤い点の姿がはっきりと見えてくる。

 V字状の頭部とボロボロの服のようなデザインをした胴体、そして妙に細い手足。赤い点もまた、人型機械であった。

 そんな人型機械の大群に翡翠色の人型機械は突っ込んでいく。


「一発で仕留める! 悪いが……アンコールは無しだ!」


 男が人型機械のコックピット内でグリップを振り下ろす。それと同時に翡翠色の人型機械が長剣を振り下ろし、赤い人型機械を切り裂く。


「次!」


 すぐさま近くにいる別の人型機械に接近し、切断。そして、爆発。

 ようやく味方が撃破されていることに気が付いて、宇宙に群れる赤い人型機械たちは指先からレーザーを放って翡翠色の人型機械に攻撃する。


「遅いぜ!」


 しかし、翡翠色の人型機械は巧みな機動でそれらすべてを回避、長剣を手に持ったまま、手首に搭載されているアンカーを射出し次々と敵を蹴散らしていく。

 撃墜スコアが二桁に達した頃、コックピット内に女性の声が響く。


『エイジ! 今いい!?』

「あ?」


 エイジと呼ばれた男は、恋人とのデート中に会社の上司から電話で呼び出されたかのような顔をする。それでも、呼び出しを無視せず敵を蹴散らしながら律儀に返事をする。


「んだよ、ライブの途中参加は受け付けてねえぞ」

『そんな軽口言っている場合じゃないわ!』


 何やらただ事ではないことが起きているらしい。切羽詰まったその通信からそのことが理解できた。


「…………どうしたんだよ」

『こっちにD-01の大群、それと新型が多数が出現したの! 今はまだ持ちこたえているけど、長くはもたないわ! 早くこっちに来て頂戴!』

「そっちに戦力を集中してきたか……。わかった、すぐに向かう」

『お願い!』


 ブツン、と乱暴に通信が切れる。言い方もどこか乱暴だったが、それだけ女性の所属する分隊が追い詰められている証拠だと考えた。


「…………急がないといけねえな」


 フウ、と息を吐くと、さっきまでのお調子者然とした雰囲気が霧散する。


「さて、行かせてもらう。仲間たちのところに」


 もはや、ヘラヘラした若者はいない。コックピットに座っているのは幾多の戦いを乗り越えた歴戦の勇者。

 翡翠色の勇者は長剣を天に掲げる。すると、刀身が白い光に包まれ、まばゆい光を放つ。


「だから、どけ」


 長剣を振るうと、剣先から光が広がって黒い宇宙と赤い人型兵器群を白く塗りつぶしていく。

 そして、光が消え去り宇宙に闇が戻ったとき、そこにいたのは翡翠色の勇者だけであった。長剣を背中のハードポイントに吊るし、スラスターの軌跡だけ残して仲間のもとへと向かっていく。

 その宙域には再び静寂が訪れた―――。




 この戦闘はのちに第一次デッドリー戦役として記録される。この戦いによって地球圏にやってきた無人兵器『デシアン』は一度撤退していった。

 しかし、これはひとつの物語の前日譚でしかない。

 物語は第一次デッドリー戦役から100年後の、地球圏から始まる―――。

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