第70話 成長

 来夏が『魔法』の力を振るわずとも、アリードは自らの力で、イェシャリルの独立を解決した。それが何より、嬉しかった。彼の成長を垣間見ることが出来る。この国の人々が自らの力で歩いて行ける未来が。しかし、今は、まだ……。

 砂漠に広がる空を見上げた。

 強い日差しが、風に舞う小さな砂粒を輝かせる、この空は、彼らだけのものだった。来夏の張った結界が航空戦力の侵入を拒んでいる。今は、まだ小さな檻の中で守られていたのであった。


「ラーイカ、空を見ているのなのです」


「ラーイカは、雲を見ているなのです」


 洗い物の途中のノルノルとイルイルが、来夏を覗き込む。彼女の揺れる気持ちを感じ取ったかのように、そっと。


「うん、いい天気だものね」


 来夏に言葉につられて空を見上げた二人だったが、慌てて洗濯物を持って走り出した。


「早くほすのなのです」


「速くほすと、速く乾くなのです」


 掃除や洗濯も様になって来た二人を、微笑ましく眺めていると、彼女たちの後ろを、頭一つ位小さな子供が鮮やかな赤い色の靴を履いて付いて回ってた。

 来夏がお土産に買って来た靴だった。

 彼女たちは、自分たちより、さらに小さな子供たちのために、それをねだったのか。気が付かぬうちに、彼女たちも成長していたのだ。

 親鳥を追う雛のように、並んで歩く小さな子供たちの姿を、微笑みを浮かべて眺めていた。


 だが、ゆっくりとした砂の国の歩みをあざ笑うかのように、世界は動き出していた。

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