ねぇ‥‥..

やおき

ねぇ......

        ◆◆◆


 『ねぇねぇ、知ってる?あの噂』

 

 『あ、知ってる知ってる今流行ってるやつだよね』

 

 『あれって本当なのかな?』

 

 『さぁ?でも掲示板とかで色々書かれてるよね』

 

        ◆◆◆


「アホらしい」

 俺は一言そう呟いた。

「えー、でも今超噂になってるじゃん。掲示板とかでよく見かけるぜ?」

 友達は好奇心が強く、よく噂を探しては俺に説明してくる。今日も学校で嫌と言うほど聴かされた。

「だから、見たやつはいいひんのやろ?」

「確かにそーらしいけど」


 今、世間で奇妙な噂が流れている。

 それは急に噂され誰が広めたかも分からない。掲示板にも書かれており、誰もがその噂話で持ちきりだ。噂が噂を呼び今では知らない人が居ないレベルにまで広がっている。

 ―俺は今日こいつに聴かされたけど……

 

 噂の内容はこうだ。夜に誰もいない道を一人歩いていたら子どもの声が聞こえてきて「ねぇ、ねぇ、」と言ってくるらしい。どこから聞こえてくるのかも分からない。ただ声だけが聞こえてくる。その声に返事をすると子どもは無邪気に「⚫⚫⚫⚫」と答える

それを聞いた人は “願いが叶う” と言われている。

 

 そんなオカルト的な定番の噂がなぜ広まるかと言うと皆 “願いが叶う” と言う部分を信じているからだ。 

 人は誰しも叶えたい夢・希望・望み・欲望があるから人はそれがすぐ手に入るなら手を伸ばす、あるいは面白がるからこんな噂でも簡単に広まるのだ 

 

 だが奇妙なことに誰一人として願いが叶った人、あるいはその子どもに会った人はいるかと聞かれると誰も知らないと言う。何とも信憑性に欠けた話だ。

 

 ―だから俺は信じないし実証しようと思わないし叶えて欲しいモノなど無い。

 

        ◆◆◆


「叶えたい夢とかないの?欲しいものとか?」

 一緒に歩いてる友達がしつこく聞いてくる。

「今の高校生なら少しぐらいあるもんでしょ?」

「俺は夢もなければ別に今欲しいものなんて無いな、しいて言うならその噂の子どもに会ってみたいわ」

 絡みが鬱陶しいと言わんばかりの顔をしながらそう答えた。

「俺は欲しいもの一杯あるな~。まず彼女欲しいでしょ、お金でしょ、それとね……」

「分かった分かった。一杯あるのは分かったから…」

 途中で話を終わらし「じゃあバイバイ」と途中で友達と別れて俺は家に帰った。

 

        ◆◆◆


 親からコンビニに買い物を頼まれた俺は夜の暗い帰り道一人を歩いていた。街灯が少なく辺りが暗いおかげで月や周りの星がよく見える。俺は綺麗な空を見上げながらのんびり歩いていた。


【ねぇ、ねぇ、】


「ん?誰だ?」

 俺は誰かに声をかけられたと思い辺りを見渡す。が周りには誰も居なかった。


【ねぇ、ねぇ、】


 それでもまだ声が聞こえてくる。どれだけ見回しても誰か居る気配は無く俺はそろそろ我慢の限界で大きな怒鳴り声を出した。

「こそこそ、隠れてやんで出てこいや!キモいやろ!」

 まだ声は聞こえてくる。俺はなぜか寒気がはしり急に怖くなって走って帰ろうとしたら目の前に子どもが立っている。

 俺は驚いて声が出なかった。血流が早くなり体から嫌な汗が溢れてくる。心臓の音は早くなり耳にまで聞こえる。だが頭は酷く冴えていて今日の帰り際の話を思い出した。

 俺はハハ、とニヤけてしまった。まさかあんな噂が本当だとは思わなかったからだ。

「なんや、お前が噂の少年か」

 子どもはうつ向いたままこちらを見ない。

「何か、話せよ。噂通り答えてあげてんから願い叶えてくれるのか?」

 子どもは口を開きぼそぼそ何か言っている。聞き取りづらく俺は子どもに前屈みになって顔を近づけた。


【ううん。違うよ。願いを叶えるのは貴方じゃない】


「はぁ?じゃあ、誰が願いを叶えるねん噂と違うやんけ」


【貴方は叶える方じゃない。叶える為に必要な…】


“生け贄”だよ 


 後ろの方から声が聞こえて俺はビックリして後ろを振り返った。だが後ろには闇が広がり人の気配は無い。俺はすぐさま子どもの方へ向きなおす。

「何を言ってるんや?どういうことや!」

 前に顔を戻すと子ども姿が消えていた。

 俺は寒気がして走ってこの場から逃げようとした。けれどなぜか体が動かない。足が地面に引っ付いたようにピクリとも動かない

「ど、どうなってるねん、何で動かんへんねん」

「だって逃げられたら困るから動けないようにしてるんだ」

 少年が消えた暗闇から別の男の声が聞こえてくる。誰だ?と思い目を細め暗闇を見つめると出てきた男は今日、帰り道を一緒に帰った友達だった。

「な、何でお前がここにいるねん!どうして!」

「そんなの決まってる。願いを叶える為に決まってるじゃないか」

 そいつが向けてきた笑顔は気味が悪いほどニタァと笑っている。

「あの噂は間違いなんだ。確かに願いは叶えてくれる。でもそれは返事をしたからじゃない犠牲があって願いは叶うんだ。分かりやすく説明していこうか、まず最初に子どもに出会う。そして子どもに望みを言う、すると子どもはスゥと暗闇に消えていく。この後は噂通り「ねぇ、ねぇ、」と別の人に声をかける。ここで返事した人の願いが叶うんじゃない。返事した人が願いを叶えるための生け贄になるんだ」

 長々とあの噂の真実を話す友達の顔は見たこともない不気味な顔をしていた。

「じゃあ....あの噂は嘘だったのか?」

「あー嘘だよ。何故だか知らないけど嘘の噂が流れている」

「じゃあ、何でお前は知っとんねん!」

 友達は俺の顔をジット見つめまたニタァと気味の悪い笑みを浮かべる。

「俺も最初は信じてたさ。あの噂をでもその子どもに会い話を聞き知ったのさ。まず願いが叶うのに犠牲も代償も無く叶うと言うのが間違いらしいよ。ねぇ?」

 友達は俺の後ろに声をかけた。俺は恐る恐る後ろを振り向く。


【あぁ、そうだよ。人間は考え方が甘いんだよ。それじゃあ、儀式を始めようか】


「や、やめろ!何するつもりだ!!」

「まぁ、僕のために死んでくれ。バイバイ」

 俺の叫び声が夜の空に響き渡った。


        ◆◆◆


「うわぁ、何やってるんですか。死体をバラバラにするとか音ヤバかったですよ。途中で俺見るの止めて耳を塞いでましたもん」

 子どもは血溜まりの中に座り込んで何かを作っている。


【何って箱に積めてるんだよ。出来た!】


 子どもが立ち上がり僕に見せてくる。それは元は綺麗な箱だったのだろう。でも今は所々が血で赤くなり無理矢理詰め込んだのか形が少し変わっている。

「で?どうやって叶えてくれるんですか?」


【あーそういえばそうだったね。こうだよ】


 子どもが頭をこっちと腕をこまねきする。俺は訳も分からず顔を近づけると頭を触られた


【はい。終わり】


 手を離し子どもはそう言った。

「え?何も叶ってませんよ。お金は?億万長者にしてくれるはずじゃ……」

 バタっと倒れた

 ―え?俺は何で倒れてるんだ?どうなってる?


【大丈夫だよ夢の中で億万長者になれるさ。代わりに永遠に起きないけどね。】


「騙したのか!」


【人聞き悪い願いは叶えただろ “夢” の中で億万長者になれるんだ。喜んでよ。大丈夫、死んだら友達の所に仲良く逝かしてあげるから】


「や、やめろ…いやだ....やめろー!!」


【 “夢” で叶えてあげたんだから感謝してほしいものだよ。人間は自分のことしか考えない。また新しい噂でも流そうかな】


 少年は醜い箱を二つ抱えて闇に消えていった。血まみれだった地面は血なんて元々無かったかのように消えている。


        ◆◆◆


『ねぇねぇ、⚫クラスの××君行方不明らしいよ』


『えー何かあったのかな』


『さぁー?分かんない』


『それよりあの噂、本当かどうか実証してみない?』


『いいね、やろやろ』


        ◆◆◆









【ねぇ、ねぇ、】


【願いは?】


【それじゃあ、儀式をしようか】





 

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