妻とは今ジャングル離婚中でして・・・

ちびまるフォイ

見つけた!君こそ俺のマイパートナー!

「もういや! あなたって本当に最低!! 結婚なんてするんじゃなかった!!」


「それはこっちのセリフだ! 結婚してから本性出しやがって!

 お前みたいな痩せた女と結婚したのが人生最大の失敗だよ!!」


「ひどい! そんな風に思ってたのね! 私もうジャングルに帰らせてもらいます!」


「ああ、実家にでもどこへでも帰れば……じゃ、ジャングル?」


「さようなら!!!」


それきり妻は戻らなかった。


独身時代を楽しめるとはしゃげたのは最初の数日だけで、

仕事帰りの真っ暗な部屋で、一人きりで食べるカップラーメンに妻のありがたみを思い知った。


「俺は……俺は妻にどれだけ助けられていたか……」


深い後悔に突き動かされてジャングルへとやってきた。

調査によるとこのジャングルに妻がやってきたという。


「いったいどうしてジャングルなんかに……」


「かけこみ寺みたいに使う女性が最近多いんですよ。

 イチから自分の人生を見つめ直すとともに、たくましくなれますからね」


「はぁ……でも観光用だから安全なんでしょう?」


「んなわけあるかぃ。普通に猛獣いるから半分以上は戻ってきません」


「ええええええ!!!」


これじゃあ自分を見つめ直すどころか、ただの自殺じゃないか。

なんとしても妻を見つけなくては。


「言っておきますが、ジャングルでの生活が長くなると言葉も忘れる。

 もうあなたの知っている奥さんじゃないかもしれませんよ」


「そうだとしても、俺は必ず妻を見つけて連れ戻します!!」


どこまでも続く原生林。

その中でたったひとりの人間を探す。


「おおーーい!! 返事をしてくれ! 俺が悪かった! 許してくれ!」


熱帯な気候と先の見えない捜索活動に準備していた食料は尽き、

どんどん俺までも野生化しはじめた。


「お、おれ……見つけ、ら、るか、ふ、あん……」


言葉を忘れないように必死にひとり言をつぶやき続ける。

数日も探しても足取りひとつつかめない。



本当はもう死んでいるんじゃないか。

こんなにぼろぼろになってまで探す相手なのか。

このまま自分もジャングルに取り込まれるんじゃないか。



「あき、ら、め……よか」


どんどん失われる語彙力の中で「あきらめる」という言葉だけは残っていた。

ジャングルに来てはじめて帰り道をさがしたとき、人を見つけた。


「ウパウパパ」


「ほんと、か!? おんな、むら、いるか!?」


「ウパ―」


身振り手振りでなんとか意思を通じ合わせることができた。

この先の村に女がいるらしい。


こんなジャングルの奥地にいる女……妻に違いない!!


「幸子ォォォ!!!」


最後まで忘れなかった妻の名前を叫んだ。

村には入口に太った女と、スタイルのいい女の2人がまっていた。


「幸子!! 幸子!! 幸子ォォォ!」


「ち、、す」


「ずっと会いたかった!! 幸子!!」


「ち、、、、す」


とめどなく溢れる言葉よりも妻の求めるキスでそれに応じた。

その夜は激しく愛し合い、お互いの愛を確かめ合った。


 ・

 ・

 ・


「ああ、ついに奥さんを見つけたんですね!」


「はい。どんなにぼろぼろでも妻の顔と名前だけは忘れませんでした」


「夫婦愛の奇跡ですね」


なんとかガイドのいる入口まで戻ることができた。

その道中は必死に馬が言葉を思い出せるようにと語りかけた。


そして、ふたりで飛行機に乗るころ、ついに言葉を取り戻した。


「あ、、、あの、、、、」


「おお! ついに言葉を思い出したんだね!? なんだい!?」


「さいしょにいおうと、おもって、た、、、ことば」


「うんうん! 最初になにを言おうと思ってたんだい!?」




「ちがいます。私、あなたの妻じゃありません。

 あなたの奥さんはあっちの太った方です……と言いたかったんです」



目の前で浮気を見せつけられた妻という猛獣が潜むジャングルに

俺はもう二度と戻れなくなった。

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