泣き虫な君の…

なつきも

第1話

いつも通りの朝だ。カーテンから差す光の感じでは、今日はいい天気だ。なぁ、そう思うだろ?

振り返った先に誰もいない。

そうだった、今日から君は出張だったと思い出すと急に寒くなった。

「うぅ…寒い寒い…」

私は急いで暖房を付けた。

ゆっくりと暖かくなる部屋。しかし、私の心は寒いままだ。

「いつもなら、ここで君が抱きついてくれるのに…」

そう呟いた言葉は静かな部屋に響いた。


今日から君は1週間帰ってこない。出張で1週間…意外とこんなに離れるのは久々かもしれない…なんて思いながら食パンを焼く。食パンを焼いてる間に着替えようかと思ったが、そもそも出かける用事なんてなかった。…いや、夕飯の買出しには行かなきゃだな…

私にとってこの1週間は暇だ。学校は休みだし、友人はいない…いや、いるにはいるのだが学校が違うから都合が分からない…聞く気も起きないし、まぁいいか。

そんなことを考えてたら食パンが焼けた。冷蔵庫を開けるとマーガリンが残っていたからこれでいいか。

適当に塗った食パンを食べながらリビングに戻ると足元で音がした。

「にゃあ」

おっと…こいつのえさ忘れてた…

急いで猫にえさをやる。

今日は何もやる気が起きない…ぼんやりするし…熱でもあるのか?と思い、体温計を探す。…あった、これで熱があったら笑えるな…と思いつつ少し不安。

食パンを食べつつ体温を測る。

特に朝ってテレビも面白くない。録画してるものでも観ようかとリモコンを操作するが、うまくいかない。電池の調子が悪いのか?…まぁいいや。とリモコンを置いて付いてるテレビをなんとなくみる。

しばらくしたら、体温計が鳴った。

体温を見ておもわず食べかけのパンを落としかけた。

「37.5度…」

私にとってはそこそこの熱だ。元々低体温で35度台の私にはこの温度は辛い。

「なんでこんな時に限って…」

君がいない時に熱出すとか運が悪い。きっといても頼らないよな…とか考えながら冷えピタを探す。

流石にない。買いに行くしかないか…

熱があることを知った身体はさっきより重い。無理に動かし、買いに出た。


はっ…!

どうやら寝ていたようだ。時計を見れば22時…かなり寝ていたようだ…

買い物から帰ってきたのが11時…そこから昼食を食べて薬飲んで…14時までは記憶がある…そこからか…?

冷えピタを外しつつ寝巻きに着替える。新しい冷えピタを慎重に貼ってる途中でメールが届いた。

『連絡遅くなってごめんね…!ちゃんとご飯食べてる?』

相変わらず心配症な君。

『しっかり食べてるよ』

と軽い嘘をついて返信。変なこと言って心配事増やしたくないからね。

よし、貼り終えた。自分じゃ冷えピタ貼りにくいな…と呟いてると、またメールが届いた。

『それならよかった…。明日も早いから君も寝てね。おやすみ。』

お母さんかよ…と思ったがそこが君らしいよね。

『わかってるよ、おやすみ。』

と返し、スマホを閉じる。

早く治さなければ…君が帰ってきてしまう。…さて、私も寝るか。


3日目の朝、事態は悪化する。

声が出ない。熱が上がってる。なぜだ…

昨日はゆっくりしてたぞ…熱も下がってきてたし、安静第一にしていたのになぜだ…

私はふと思いつく。…愛か…?愛が足りないというのか…?

昨日、君から連絡が来なかった。忙しいのだろう。そんなことはいつもの事だが、この弱ってる時にはダメだったのだろう…悪化した。

うーん…今日は食べる以外寝て過ごそう。明日はきっと良くなる…そんな気がする…


5日目の朝。

一昨日の勘は当たっていた。徐々にだが熱が下がってきている。なんとか君が帰ってくる頃には間に合いそうだ。

「にゃあ」

そうだ、こいつにも感謝しないとな…

「ありがとな…」

優しく撫でてやると目を細めて「にゃぁ」と鳴いた。

こいつは熱を出した時から何かを察していたのだろう。片時も離れず寄り添ってくれた。寝るときは布団の中に、テレビを見てる時は膝の上に…常に暖めてくれていた。いつもはそんなことないくせに…とんだツンデレ野郎だ…人のことは…いや、猫のことは言えないが。

今日はリビングで過ごすか…と猫を撫でながら考えているとメールが届いた。

『ここ数日連絡しないでごめんね!仕事終わったらすぐ寝てて…。あの…明日って用事あるかな…?』

久々に君からのメール。

『ごめんね、用事あるんだ…』

と返信。本当は用事なんてないけれど、熱があるのバレると大変だしね…ってかなんで明日…?

そんなこと思っているとまたメールが届いた。

『仕事早く終わったから、早く帰れるようになったんだけど、用事あるなら仕方ないね…』

しょぼんとした君の顔が思い浮かべると少しにやけてしまった。でも、会えない。心配させたくないしね。

『ごめん』と打っている途中でインターホンが鳴った。こんな昼間に誰だろう…

「はーい」

画面に映った人を見て驚いた…そこに居たのは君だから。

「早く終わったから帰ってきちゃった…」

と嬉しそうに笑う君を見て、私は内心ものすごく焦っている。

どうしよう。まだ冷えピタ貼ったままだし部屋着のまま…このままではバレてしまう。

どうにか着替えて冷えピタもはがした。ある程度身なりを整えて君を家にいれる。

「ただいま!」

君は嬉しそうだ。

「おかえり…」

と言った私の顔はきっと笑えてないだろう。幸いにも嬉しそうな君の目には映ってない。

嬉しそうに抱き付く君の体温が熱い。きっと走って帰ってきたのだろう…今はその体温が救いだ。微熱とはいえ、君が気付かないわけがない。走ってきてくれてありがとう…この思いは心にしまっておこう…。


数分後、帰ってきたばかりの君は仕事場に報告するのを忘れたと言って慌ただしく出て行った。

真っ先に帰ってくるとか可愛すぎるんじゃないかと頭を抱えたがきっとこんなことを考えてしまうのも全部熱のせいだと思うことにした。今日のわたしはやっぱりおかしい。

リビングに戻り、君の荷物を開ける。まず洗濯からだな…と衣類を取り出し、洗濯機に入れる。少しふらっとしたが大丈夫…まだ動ける。

荷物を片付けてホッとした瞬間、目の前が一瞬暗くなった。まさか熱が上がったか?と思い、おでこに手を当てると熱い。朝より上がってるようだ。調子に乗って動きすぎたなと少し反省しつつ、洗濯終えた衣類を取りに行く。もう少しだけ動けるように冷えピタは貼った。

衣類を干し終えて、ソファーで一息付いたところで少し眠くなった。ここで寝てはまずいなと立ち上がろうとしたが足に力が入らない。どうやら限界のようだ。仕方ない、諦めるかと意識を手放した。


ん…?なんだか、泣き声が聞こえる…?誰かが泣いてる…なぜだか、動けない。というか、いつの間に布団に入ったのだろうか…?

目を開けて泣き声のする方を見ると君がいた。顔は布団に隠れてよく見えないが泣き声だけはする。そっと撫でてあげるとこっちを見た。

「う…うぅ…起きた…?」

と目を真っ赤にさせて聞いてくる姿にちょっとドキッとしたのは秘密です。

「起きたよ…だから、ほら泣かないで?」

って涙を拭ってあげるけど止まらないね…

「帰ったら倒れててものすごい熱で…死んじゃうかと思って…」

って死ぬわけないじゃんというツッコミは今はしないでおくよ。君が今にも死にそうなくらい心配してるからね…。

やっぱりダメだな私…と後悔していると

「いつから熱あったの…?」

と聞かれた。

「5日前から」

と答えるとまた泣き出しそうだった。


「どうして言ってくれなかったの…?」

と聞くから

「心配かけたくなかった」

と答えると少しムッとした顔で

「心配かけて欲しかった」

って可愛いこというから思わず本音が漏れかけたがぐっと堪えて

「言ったら仕事に身が入らなくなるでしょ」

と強めに言った。少し考えてから俯きながら「そうかもしれない…」

と君らしくないことを言うものだからビックリしてしまった…あれ?いつもなら『そんなことない』って言うのに…と悶々と考えてると俯いてる君が

「これからも言わないつもり…?」

と聞く。本当に今日どうしたの…?

「これからは言うよ」

と言ったが、本当は言わない。心配かけてもいいと言われてもかけれるほど素直になれない。きっとまた同じことを繰り返す…これじゃあ嫌われちゃうね…

「嘘だ…」

と君は呟いた。流石に分かっちゃったか…と内心苦笑い。

「嘘じゃないよ」

と綺麗事を並べる私に君は何も言わない。少し心配になった私は起き上がり

「どうしたの?」

と聞く。君は勢いよく顔を上げて私を抱きしめた。突然のことに驚いた私に君は

「さっき心配したでしょ?」

と意地悪そうに笑う。

「心配はお互いにかけ合うものなんだよ」

という君。その言葉が心に染みて少し痛い。泣きそうな私を見て君は少し焦ってる。焦ってる姿も可愛い。

「これからは何かあったら出来るだけ言うようにするよ」

と言うと、君は嬉しそうに

「約束だよ」

と言った。


「そういえば食欲ある…?」

って聞いてくるから

「ある」

と答えた。おかゆでも出てくるのかな…?

「おかゆ作ったよ…」

って持ってきたおかゆは美味しそうだ。料理をあまりしない君が一生懸命作ってくれたと思うとますます美味しそうだ。

どうやら食べさせてくれるらしい。一生懸命冷ます姿も可愛い…。

やっと冷めたのか口に持ってきてくれたおかゆを一口食べた。ものすごくしょっぱい。泣きながら作ったっていうのが分かるくらいのしょっぱさ。このおかゆ塩辛すぎる…。でも、塩辛いが君の想いが詰まってて美味しいとも思った。味覚もやられたのかな…

「味…どうかな…?」

って心配そうに聞く君。

「おいしいよ」

と答えた。嘘じゃないよ。塩辛くても君が作った愛情たっぷりのこのおかゆは美味しい。

「そっかぁ…」

って嬉しそうに笑った。


「ごめんね…こんな日に…」

とわたしが謝ると、君はきょとんとした顔で首をかしげている。あれ?もしかして忘れてる…?

「もしかして何の日かわかってない…?」

と聞くと、ものすごく焦った顔で思い出そうとしていた。その姿がすごく面白くて笑ってしまうと、『?』が見えそうなくらい悩んでいた。

「今日は誕生日でしょ」

って言ってあげると、やっと思い出したみたいで笑ってた。

「そっか、今日誕生日だったね…忘れてた…」

って君は苦笑い。

「でも、大丈夫だよ」

って言うものだから、今度はこっちがきょとんとしちゃった。

「何が大丈夫なの?」

って聞くと

「だって、今日はずっと一緒にいられるから」

って言うものだから、この人は本当に男だろうかと心配になる。そんなところも好きだけどね。

「熱が下がったら一緒にケーキ買いに行こうね」

って言ったら

「うん!」

って今日一番の笑顔で答えてくれた。やっぱり君には笑顔が一番だね。

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泣き虫な君の… なつきも @ntkm04

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