タイムリミットリリース
遥音の杜
第1話 花びらの舞う頃に
ギィ。と軋む金属の扉を開くとそこは屋上だ。
普段は先生が鍵を持っていて生徒は立ち入り禁止だ。
「やぁ。待ってたよ橘君。
柵の上に座っている女の子が話しかけてきた。
「誰?」
「さあね、誰だろう。でも君はこれか会うことになるだろうね、ふふふ」
不敵な笑みをこぼしながら言った。
「君は今待ってたよと言ったね。つまりどういうことなんだい?僕が来ることがわかってたというのかい?」
「ふふふ、さあねどうだろう。私は君に質問しにやってきたんだ。」
「質問?」
「そう、質問だ。私はこのためにわざわざ遠くからやってきたんだよ。少しはそのあからさまな警戒心を解いてほしいな」
見ず知らずの人に突然話しかけられて警戒しない人のほうがおかしい。
「では、本題に入ろう。私はこれでも時間が無くてね。ズバリ“鍵はどにある”という質問だ。実に簡単だろう」
…はぁ。まるで意味が分からない。Yes No で答えられるならまだしもこの質問は意図すらわからない。大体、鍵ってなんだよ。
「すみません。そもそも鍵ってなんの鍵ですか?屋上のなら僕は知りません」
「そうか…この時はまだ知らないのか。ではわかった最後の質問だ“君は見ず知らずの女の子が困ってたら助けるか?”」
(淡々と聞いてくるな…)
「いいえ、助けません。」
その瞬間女の子が驚いたような表情になったのが逆光の中でもわかった。
「ほう、意外だな。その根拠はなん、なんだ」
あからさまに動揺しているのが伝わってくる。
「別にこれといったわけはありません。ただ人助けなんてものは人一倍正義感の強い者がやるからこそ意味があるんですよ。」
自分で言っといてなんだが少しひどいやつだ。
「ふふふ、君は相変わらずおかしなやつだな…」(なんで私は助けたのよ…)小さくぼそぼそと聞こえないぐらい小さい声だった。
「では、君に一ついいことを教えてあげよう。帰りに図書館で【タイムオーバー】という本を借りなさい。さすれば私が誰だかわかるかもしれないよ、ふふふ」
さっきの驚き顔はどこへいったのだろうかというぐらいすがすがしいい顔をしている。
「僕が見ず知らずの人の話を聞くと思いますか?」
「ええ。必ずそうするわ。少なくとも見ず知らずの私の話を、質問を答えてくれたのだから」
なぜだかこの女の子に僕は高い信用を得ている。
「そろそろ時間だ、じゃあね。—と言ってもすぐにまた会えるんだけどね、ふふふ」
風が強く吹き桜の花びらが視界を覆い隠す、思わず目を瞑ってしまった。
目を開いた先には彼女はもういなかった。
「ほんとに何者で、何しに来たんだよ…意味わかんないよ」
すぐさま教室に戻ると荷物をまとめ図書館へ向かった。
僕は言われた本を借りた。黒の本でタイトルに白地で題名が書いてある、なんともシンプルな著作者不明の小説だ。
貸出履歴には一人の名前が連続して並んでいた。
その名前は“
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