サイボウ、ココロ
@a-i000
第2話 秘密
案の定、仕事は早く終わり彼女の家へと向かう。手には近くのコンビニで買ったチュウハイが入った袋を持っていた。
月明りが彼の足元を照らし、薄野秋の部屋があるアパートまで導いた。
彼女の家はこのアパートの二階の一番右端の部屋で、そこには明かりがついていた。
階段を上がり、部屋の前へと行く。
「ただいま」
何となくそう言って入ってみた。彼女がどんな反応をするか見たかったからだ。
「うわっ!お、おかえり」
思った通りの反応で海原橙はクスクスと笑った。
「なによ?」
「いや。思った通りの反応でつい…」
「そりゃビックリするわよ。いきなりただいまなんて言われたら」
少し膨れる彼女に謝る。
「…ご飯できてるよ」
「おっ!早速頂こうかな」
そう言って二人はリビングに入った。
食卓には、海原橙はリクエストしたロールキャベツ以外にも、サラダと味噌汁などがあった。
「さあ食べよう」
「うん」
二人は席について、
「いただきます」
「いただきます」
と言って食事についた。
「美味しい」
「そう?よかった」
二人は今日のことや、今度の休みには何をそるかなど沢山話した。
「ん?」
「どうしたの?」
海原橙は彼女の左頬にある痣を見た。
「その痣、そんなに広かったっけ?」
確か、昼に見たときはいつもと変わらず、小さな痣だった。しかし今の彼女の痣は小さいどころか、左頬全体に広がっていた。
薄野秋はその言葉に動揺した。側にあった鏡で確認すると確かに広がっている。
(発症…しだした…)
血の気が引いていくのが分かった。
「秋?」
彼の呼びかけで薄野秋は我に返った。
「どうかした?」
「ううん、なんでも。きっと気のせいだよ」
そう言って誤魔化した。
海原橙は怪訝に思ったが、それ以上は聞かなかった。
夕飯の後片付けをして、二人は買ってきたチュウハイを飲んだ。
その間テレビを見たりしていたが、海原橙はやはり彼女の痣が広がっている様に見えた。しかし、その事は彼女に言わなかった。言って彼女の顔が曇るのには耐えられなかったからだ。
時刻は二三時を過ぎていた。
「明日もあるし、そろそろ帰るね」
「うん。また明日」
そう言って二人は唇を合わせた。
「じゃ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
海原橙は薄野秋の家を後にした。
帰り道。ずっと考えていた。彼女の痣のことを。以前聞いたことがあったが、小学生のときに急に出来て、それ以来治らないらしい。初めて会ったときに比べても大きさは変わらなかったが、今日、しかもお昼から夜の短時間の間であんなに大きくなるものか?
(なんかの病気じゃ…?)
少し不安が過ぎった。
帰ってネットで調べるかと思った時、
「海原」
誰かが正面に立っていた。暗いから良く見えなかったが、暫くするとそれが佐々部であることが分かった。
「佐々部さん?」
「そうだ」
「お疲れ様です」
「相変わらずだな」
佐々部は笑った。
「どこか行かれていたんですか?」
「ああ。ちょっと知り合いと飲んできた」
二人は一緒に歩き出した。
「お前はどうなんだ?」
「彼女の家にいました」
少し照れくさかったが、上司に嘘は言えなかった。
「ここの住人か?」
「はい」
「・・・そうか」
佐々部は黙った。
「なあ、海原」
佐々部は続けた。
「お前の彼女、痣があるか?」
「痣?」
痣と言われれば、薄野秋の左頬が浮かんだ。
「ありますけど…」
「そうか…」
その時の佐々部の声は凄く沈んでいた。
「佐々部さん、何かあったんですか?」
酒を飲んできたとは言っていたが、少しおかしな気がして、聞いてみた。
「海原」
佐々部は立ち止まった。
海原橙も立ち止まったがやけに隣が明るいことに気がついた。
「佐々部さん…!」
その正体を見るべくして、見てみるとなんと佐々部が光っていた。
「これはどういう…」
何がなんだか分からなかった。人間の体が光っていて、そして今にも消えそうだった。
「どうやら時間がないらしい」
「え?」
「海原、良く聞けよ」
そう言って、佐々部はこう言った。
「お前もこの町に来て半年が経つ。仕事も慣れてきた。もう一人でも仕事をこなせる様になったしな」
それはまるで遺言かのように佐々部は続ける。
「仕事をこなして、不思議に思ったことはないか?」
「…あります」
そう、ずっと不思議に思っていたことがあった。一般人が立ち入りを禁じられているのに[ミサキ区]には人が住んでいる。本来、そのような場所ならありえないことだ。それに、ここの住人の大半は痣がある。
そう思っていたことを佐々部に話した。
すると佐々部は笑って、
「そこまで分かっているなら、あと少しだ。お前もそろそろこの町の秘密に気がつく筈だ」
先程まで薄かった光が強くなった。
「佐々部さん!」
「達者でな」
そう言って、佐々部はいなくなった。変わりに佐々部が立っていた場所には光の粒が舞っていた。
何が起こったのかわからない。ただ、分かるのは佐々部がいなくなってしまったこと。それだけだった。
海原橙の頬を一滴の涙が伝った。
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