Hello・Inhumanity
@pakokin
序章 ~始まりの刻~
第一話 事件、1日前
「本日よりこの街は、ゲームの世界になりました」
ある日テレビ画面から聞こえた言葉だ。本来なら町中パニックになるのだろうが、そんな事は起こっていない。
俺は一時期とうとう主人公になる時が……! なんて思ったがもうそんな事は思ってすらいない。
なぜなら何も変わってないからだ。レベルや魔法があると信じて1人で「アクアワールド ~水の宮殿~」だの「ウォーターサーバー」だの「エクスプロージョン」なんて唱えていたのは思い出したくもない。
まぁ要するに俺はその姿をTwit●erに晒された以外はいつも通りの毎日を過ごしている。
ちなみにその後調べてみると世界的に俺の街がゲームの世界になった事は広められていた。どこがゲームの世界だとは思うが、まぁそういうことらしい。
しかし1つだけ変わった事がある。
突然現れた1人の吸血鬼だ。そいつに噛まれると吸血鬼化し、吸血鬼化した者は殺すしかないらしい。
俺も最初そのニュースを見た時は凄くビビった。ビビりすぎてニンニクと十字架を首からさげて過ごしたのは思い出したくもない。
なのになぜパニックにならないか、それは吸血鬼化する事件がとてつもなく……
起こらないからだ。吸血鬼がまったく噛まない。何やってんだこいつって思うほど吸血鬼が現れない。
2c●では吸血鬼もっと働けとニート達に言われる始末だ。
俺の街が広いこともあいまって「俺の所にはこないっしょー」みたいな対岸の火事状態が起こったのだ。
そんな少し変わってしまった町ではあるが俺の毎日はいつも通り順風満帆。
普段はいじられキャラでT●itterでは少し意味深ツイートして俺かっけーとか思っちゃうそこら辺によくいそうな高校生の青春を謳歌している。
今日は女手一つで俺を育ててくれている母親に親孝行してあげようかな、なんて思いながら通学路を歩いていた。
明日が母の誕生日な事もあって俺はなにをプレゼントしようか思案している。俺は母に探りを入れたいのだがそこがうちの母の悪い所、妙に察しがいいので意地悪して教えてくれないのである。
さらに昨日探りを入れて感づかれたため母は既に警戒モードで難易度が上がってしまった。
しかし、今日こそは勝ってみせる!
そう思いながら俺は家の扉を開いた。
「ただいまー。」
心はホットに言葉はクールに、できる男の条件だ。
「陸人おかえりー。」
言ってる事はまともだが目つきは既に臨戦態勢。
恐ろしく速い警戒、俺でなきゃ見逃しちゃうね。
「実は俺悩みがあってさぁ。」
「あらー、どうしたのー?」
「彼女と付き合って一ヶ月の記念プレゼントしたいんだけど何が欲しいか分からないし、探り入れてみたけど勘付かれて困ってるんだよー」
ふ!これが俺の秘策!勘付かれているのは百も承知、彼女が何が欲しいか聞けば答えるだろうしそれからヒントくらいは得られるだろう。
ちなみに片思いの伊藤桃子って子はいるが彼女はいない。
嘘ついた。強がった。文句あるか。
「あらー、そうなのー。」
俺のNICEなQUESTIONに母も困ってるようだ。だが悪く思うなよ、これも優しい息子による親孝行のための尊い犠牲……
「んー、私が高校生なら一緒にデートに連れて行ってもらったらそれで嬉しいわねぇ、プリクラ撮ったらあとにも残るしそれでいいんじゃないかしら。プレゼントじゃなくてこういう方が喜ぶと思うわよ。」
なっ…!
確かに彼女とデートしたりプリクラを撮ったりしたらそれはとても記念になるだろう。
だか今俺がしてあげたいのは母親…!
母と2人でプリクラなんて…キツすぎる!
友達に会ったものなら俺のニンニク魔術師というあだ名にマザコンも足されてしまう…!
「プリクラなら記念になるしいいわよねぇ、誕生日ってわけでもないんだ・し♡」
その言葉で確信した。
この女、やはり女狐……!人の皮を被った獣……!
しかし…正論……!故に完敗……! ザワ……ザワ……
俺が顎を長くしてざわざわしていると母が笑いながら言った。
「もうあんたやっぱり駆け引きが下手ねぇ、駆け引きにすらなってなかったけど。
私はこのカメラの写真をプリントしてくれたらそれでいいわ。」
また母にからかわれた事に気付き少し落ち込んだが母の笑顔を見て俺も笑ってしまう。
今日で俺の日常が終わりを告げるなんて事も知らずに……。
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