異世界で勇者やってた俺の就活

act.yuusuke

Q1 自己紹介をお願いします

 大治 タイダ。元勇者。かつて異世界「ガーデン」はびこっていた魔物を一掃し、魔王「デス」と3日3晩の死闘を繰り広げた後、遂に倒す事が出来た。

 その際、 彼の仲間のレベルアップによって使えるようになった「帰還」の魔法によってもとの世界に戻る事に成功したが、彼に待ち受けていたものは恐ろしい真実だった。

 それは…


 「やっべぇ…皆、就活してんじゃん…」


 そう、彼に待ち受けていたもの。それは就活。

 全国の大学生がこの春に向けて準備をしていた中、彼だけは魔王討伐という肉体労働しか行っていなかったのだ。

 これはRPGで言うレベル上げ無しでのボス戦を行うに等しい無謀な行為である。


 「私、思うんだけど。タイダってうちらの世界で貴族とかしてればいいんじゃないの?」

 「まて、ツユ。俺はもともとこっちの世界の人間だぞ?」

 「でもさぁ…」


 先ほどツユと呼ばれたこの少女。先の「帰還」の魔法を習得した大賢者である。彼女は若干18才ながら魔導師の最上位職である「大賢者」であり。この勇者タイダのパーティメンバーの一人である。

 彼女のが言っている通り、タイダは魔王討伐という偉業を達成している勇者であるため、その身が望むのであれば貴族になるのも容易なのである。


 「それに、魔王を倒した今。パワーバランス的に王国に滞在し続ける事は…余り良くないだろ?」

 「どういうことよ?」

 「お前だって分かるだろ?勇者である俺という一個人の武力を手元においておくのは王様としてもリスクの高い事だろうよ」


 はぁ、とため息をついて彼女はタイダに呆れ顔で質問を返す。


 「あの王様がタイダを無碍にするような事、すると思う?」

 「…いや、ないな…ちょっと想像しただけでも実家のような安心感があったぜ…」


 彼は自身が就活に失敗した後の事を幻視した。

 それは朗らかな表情の恰幅の良い王様が美しい王妃様と一緒に花畑で手を振っているというものだった。

 遠くから見ればかなり微笑ましく、心配する事など何もないのだが。

 自身が就活に失敗してしまうという想像をしている勇者タイダにとってはそれはとても恐ろしい光景だった。


 「とにかく!向こうは向こう!この世界はこの世界!俺らの年齢ではこっちで職を探す事は普通な事なの!」

 「はいはい…まぁ、納得はしてないけどわかったっちゃ分かりましたよ。

 とりあえず、王様に報告したいから魔力の回復するまでタイダのもといた家で休んでいいです?」

 「あー…とりあえず、住んでたアパート引き払われてなければいいんだが…」


 こうして、勇者達の新しい冒険は始まったのだ。

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