マジポン・ハンティング ―聖剣エクスカリバーと新生円卓の騎士団―

平中なごん

序章 カムランの集い

「ほんの短く輝いた瞬間、キャメロットという名の場所があったことを忘れてはならない」


    アラン・ジェイ・ラーナー&フレデリック・ロウ『キャメロット』より




 四月某日夜半。


 コーンウォール州・キャメルフォード近郊「スローター・ブリッジ(虐殺橋)」……。


 その恐ろしげな名前からくる印象とは違い、これといって特になんの変哲もない石橋のかかるカメル川の畔に、平坦な、苔生した石が一つ置かれている。


 その、〝アーサーの墓〟と云われる石の傍らに彼らは立っていた……。


 草木も眠る深夜のこと、昼なお人気の少ないこの場所には彼ら以外に人の姿は見当たらない。


 それも川沿いの小道から数メートル下った、普段、人が足を踏み入れることなど滅多にないような場所である。


 こんな時刻に、しかもこんな場所で、彼らは一体何をしているのだろうか?


 上空を吹きすさぶ荒涼とした風に薄墨を引いたかの如く拡散した雲が流れ行き、時折、その薄くなった部分から漏れる朧げな月の光で彼らの姿が闇の中に映し出される。


 人数は、一人、二人……計、十二人である。


 修道士か、あるいは何かの儀式を執り行う宗教結社の一団なのだろうか? 皆、茶色の長いローブを纏い、フードを頭からすっぽり被っている。


 その内の一人、他の者達よりも一歩、アーサーの墓に近付いている男がおもむろに口を開いた。


「ここ、スローター・ブリッジ周辺は我らが王・アーサーが最後の戦いを行い、モルドレッド卿との死闘で致命傷を負ったカムランの地……だが、この石の下にアーサー王はおらず! これは我らが王ではなく、マルガヌスの息子ラティヌスなる者の墓である!」


 男は夜空へ両手を広げ、やや芝居がかった声でさらに続ける。


「我らが王アーサーはカムランの戦いの後、妖妃モルガンの船でアヴァロン島へと運ばれ、かの地で傷を癒しつつ復活の時を待っている……アーサー王は生きておられるのだ!」


 そこまで高らかに語った男だが、ふと、声の調子を落として一団の方を振り返る。


「あ、いや、モルトレッド卿。けして、そなたを責めているわけではない。むしろ、かつての過ちを償うためにも、そなたには王の助けとなってほしいのだ」


「………わかっている。ベディヴィエール卿」


 男の言葉に、一団の中の一人がそう答えた。フードの影で顔は見えないが、若い、女性の声である。


 その返事を確認するように頷くと、男は演説の続きに戻る。


「うむ……では皆の者、剣を取れ!」


「オーッ!」


 男の合図に全員が鬨の声を上げ、ローブの下に帯びた剣を一気呵成に抜き放つ。その刃の鞘走る金属音が、静かな森の中に冷たく鳴り響いた。


「時は満ちた! いよいよ今宵、かねてよりの作戦を実行する! 今こそ、我ら新生円卓の騎士団の名を世に知らしめる時……いざ、参る! 我らが王、アーサーのために!」


 男は籠手ゴーントレットを着けた手に持つ剣を天に掲げ、大声で叫ぶ。


「我らが王、アーサーのためにっ!」


 それに続き、他の者達もそれぞれの剣と雄叫びを暗い夜空へ高々と突き上げた……。

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