異変

俺がある異変を感じたのは優奈さんの実家に行った翌日のことであった。




この日は朝から漫画雑誌のグラビア撮影があったため、都内のスタジオにいた。その撮影の内容は・・・




「夏本番!相沢優奈、復帰記念グラビア!」




だった。そんな感じで水着に着替える俺。優奈さんの裸を見るとまださすがに意識する。雪の色のような白い肌。そして、胸も意外とデカい。


こうしてスタジオに用意された白い背景をバックに撮影が始まった。撮影は順調に進み、午前中には終了。そして撮影したばかりの優奈さんのグラビア写真を見る。「これでよかったかな?」とカメラマンさんは言うが、パソコン超しとはいえ、自分が被写体となった写真を見るのはかなり不思議だ。しかし、その時はまだ身体の異変を感じなかった。




そしてスタジオ内の食堂で昼食を済ませ、昼食後はラジオ局に向かう。どうやらこれからラジオの収録があるようだ。そして収録は順調に終了した。内容は優奈さんの友人だという女性声優さんのラジオ番組だった。確か名前は小関七海おぜきななみさん。年齢は優奈さんより2歳年上。そして優奈さんはこの番組のゲストだった。どうやらこの番組で3回目のゲスト出演らしい。




そして収録が終わる頃だろう、ある異変が起こった。まぁ、俺は優奈さんの身体になってからずっと真鍋先生から言われた通り、女の子としての立ち振る舞いを実践していた。そして優奈さんの趣味や嗜好・性格・交友も色々と教えられたため、俺が優奈さんになりきることについてはあんまり困っていなかった。現に他のメンバーや優奈さんの家族は誰も優奈さんの中身が変わったことに気づいていない。


しかし、ラジオの収録が30分番組の2本撮りで収録に2時間近く要したこと、そしてそのラジオの収録に集中していたことが原因で、その収録中、異変に気づかなかったのが間違いだったのかもしれない。




その異変に気づいたのは、仕事を終え、自宅に戻った頃だった。俺は夕食の準備に取りかかる時、頭の中からある女性の声が聞こえた。その声は特に特徴はなかったが、少しだけ聞き覚えのある声だった。




「あなた誰なの?私、何度も言ってるのに全然話聞いてないじゃん」




その女性の声に俺はやっと反応した。まぁ、幻聴かな。仕事で疲れているかもしれないな。しかしその女性は俺に何度も語りかけた。


「だからあなたは誰!いつから私はあなたのものになったの!」


その女性の言葉で俺は確信した。これは幻聴ではない。頭の中で誰かが俺に言っているんだ。そして、俺はそこで料理の準備を中断した。


「・・・あなたの方こそ誰なんですか?」


俺はその女性に声を出した。そしてその女性は意外なことを言った。


「相沢優奈よ!赤坂ガールズの相沢優奈。私が名前を名乗ったんだからあなたこそ名前を名乗ってよ!」


その声の主は優奈さんだった。そして俺はこう言う。


「・・・浅井貴彦です。年齢は優奈さんより3歳年下。どうやら俺は事故に遭って、俺の脳があなたに移植されたみたいなんです。優奈さん、あなたは病気で脳死状態だったんですよ」


俺がそう言うと、優奈さんはこう漏らした。


「そうだったの・・・でも私の体が無事でよかったわ。私、4月に体調崩して入院したんだけど、それからの記憶がなかったの。それはさておき、あなたはいつから私の体に入ったわけなの?」


優奈さんの言葉に俺はこう答えた。


「1ヶ月くらい前ですね。目が覚めたら優奈さんになってたんでビックリしましたよ」


そして、優奈さんはこう言う。


「そう・・・まさか私に何か悪いことやっていないよね?でも、活動再開まで至ってくれたみたいね。貴彦くん、そこはありがとう。あと私に敬語使うのやめてくれる?」


優奈さんは俺にこう注文してきた。


「・・・うん、そうだね。別に何も悪いことはやっていないよ」


俺はそう言い、料理を再開した。そして料理は完成し、優奈さんはこう言った。


「貴彦くんがちゃんと料理できるのを見て安心したわ。これなら私のことを任せることができるかも」


優奈さんがそう言う中、俺は黙々と食事を食べ始めた。優奈さんの好みに合うかどうかはわからないけど、優奈さんは特に何も言ってなかった。




そして夕食を食べ終えた俺は風呂に入る準備をした。しかし、裸の優奈さんを見るのはまだ慣れないなぁ・・・シャワー浴びる時も緊張してしまう。そして着替えを終え風呂に入ろうとした時、優奈さんは俺にこう言った。


「あなた、まさか私の体であんなこととかこんなこととかしてないでしょうね?男の子は何をするかわからないんだから。もし何かやっていたら私が制裁を加えるわよ!」


どうやら監視どころか制裁を加える気らしい。




風呂から出た俺は歯みがきとトイレを済ませ、寝間着に着替えた。しかし優奈さんの監視の目が鋭かった気がする。っていうか常時何かブツブツ独り言を言っていた。


かくして俺は眠りにつく準備をした。俺は優奈さんに、「俺もう寝るから優奈さんも眠った方がいいよ」と言った。しかし優奈さんは、「私はこの3ヶ月ずっと眠っていたんだから当分はずっと寝なくていいのよ」と言っていた。


とはいえ優奈さんはそう言った途端、俺に話をかけなくなった。どうやらすぐ眠ってしまったらしい。そして俺もほどなくして寝落ちしてしまった。

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