#Secret
Secret 01
「城ノ内さん」
コンビニ製の昼食をとっくに終えた午後一番、仕事を再開した私は、視界の端っこでやる気なさそうに携帯を見ている上司へ声をかけた。
「浅羽さんもう来られますよ。準備したほうがいいんじゃないですか」
「あー、」
上司はちらりと時計に目をやり、
「……そだね」
ため息交じりにそう言って、のろのろと腰を上げる。傍らのロッカーから上着を取り出して袖を通すその表情が、心の内をきれいに物語っていた。
「……嫌そうですね」
「そりゃあね」
気持ちはわからなくもない。
机に置かれたため息の原因は、昨日私が完成させ、上司自身が最終チェックをした書類。浅羽夫人を対象とした浮気調査報告書――それに書かれた結果は、
それなのに上司が嫌がっているのは――つまり、依頼人は諦めが悪かったのだ。
「……何回目でしたっけ?」
「五回目」
おそらく、これで終わりにはならないだろう。そんな予感がふたりの脳内を駆け抜ける。
いい金づると見ておけばいいのかもしれない。依頼人は時間と場所を絞って調査を依頼するから、山が外れても依頼人のせい。残念でしたね、じゃあ今度は期間を延ばして、なんてふっかけるのが商売人のやり方だ。たまに無能呼ばわりしてくる人もいるけれど、そういう人は二度と来ないから問題ないし。
ところがこの客はそうならない。諦めることもせず、他の探偵に乗り換えることもせず、浅羽宗一郎はただひたすらここ城ノ内探偵事務所に依頼し続けていた。
お茶出しの時に毎回見る、縋るような表情。ちらりとこちらを気にしながら、渋る上司にただ『お願いします』と繰り返す。
確かにうちは余所と比べればほんの少しお安い価格設定だ。だが、数日にわたる調査を短期間に五回も依頼すれば、安いもなにもあったもんじゃない。
「……浅羽さんってお仕事なんでしたっけ?」
「鳳興産で営業。成績は悪くないみたいだし給料はそこそこもらってるはずだけど、ここんとこうちに払った金額が月給で賄えるほどじゃないのは確かだね。ちゃんと調べたわけじゃないけど、他に収入源があるわけでもなさそうだし」
ちゃんと調べたわけじゃない、とは言うものの、この人が口に出すのだからある程度の確信があるのだろう。そうすると、浅羽さんは貯金を切り崩してまで、と。
「……なんでそこまで」
妻が浮気しているというよっぽどの確信があるのか、それとも何か他に理由があるのか。いずれにせよ、このまま続けばいつか、何もかも駄目になりそうな気がする。
思い出すのは、あの憔悴した顔。なんだかわからないがついつい同情してしまう。出来ることならどうにかしてあげたいけれど。
「まぁいい加減、ちょっと調べてみてもいいかもね」
こちらの表情に、上司が苦笑する。
お人好し。そう言われたような気がした。
*
「もう少し継続で調査をお願いします」
お茶を用意して応接室に向かうと、依頼人が報告書をテーブルに置いたところだった。内容まで目を通したにしては早すぎる。冒頭に簡潔に書かれた調査結果だけを確認したのだろう。まぁ、潔白の場合は奥様の日常が綴られているだけなのだから、確認する意味はないのかもしれないけれど。
あくまで所感としてだが、おそらく浅羽夫人は浮気をしていない。調査を始めて以来一度も、外出すらしていないのだ。それなのに。
「これ、今回の分と次の着手金」
問答無用というように押しつけられる現金に、上司が小さくため息をつく。
「浅羽さん。正直、これ以上調査を繰り返してもお役に立てるかわかりません」
「受けていただけない、と?」
「ご希望でしたら、他の事務所を紹介することも出来ます」
上司がちらりと、入り口でタイミングをつかみ損ねていた私を流し見る。
「……それ、は」
「何か不都合でも? 尾行調査についてはうちよりベテランが揃ってますし、金額的にもそれほど差はありませんよ」
「……今から事務所を変えるのは、ちょっと」
「では、教えていただけませんか」
「え?」
「奥様の不貞をそこまで疑われている理由です」
依頼人が何故かずっと言い渋ってきた理由。上司が率直に問うと、浅羽さんは視線を落として口ごもった。
俯き、目を閉じて、迷っているような考え込んでいるような、そんな表情。
ぽっかりと出来た静けさの中、上司にちょいちょいと指で手招きされ、私は慌ててお盆を抱え直した。
「失礼いたします」
空間に漂う緊張感を打ち消すように、歩み寄る。
「どうぞ」
緑茶を差し出して、軽く頭を下げる。信頼して話してもらえるよう、穏やかに微笑んで。
上司ほどではないものの、こういう振る舞いには自信があった。
「あなたは……」
ぽつりと。そう言って浅羽さんは顔を上げ、じっと私の顔を見つめた。
「あなたは素敵な方ですね」
寂しげな目。私を通して、夫人の顔でも思い浮かべているのか。どこか上司に似た顔立ちに弱々しく微笑みかけられて、ほんの少しどきりとする。
ため息を一度零した彼は上司へ視線を戻し、どこか諦めたように、静かに話し始めた。またもやタイミングを逃してしまい、上司分のお茶も出せないまま、その場にとどまって話を聞く。
「最初は、なんとなくでした。気になることがあったのは、調査をお願いしてからです」
上司がわずかに頷き、続きを促す。
「……髪飾りが、あったんです」
「髪飾り?」
「あいつの好きそうな、青いキラキラした……前、物欲しそうに見てたやつ」
先ほどまでの気弱な表情が変わっていく。眉間に皺を寄せ、悲しそうというよりは悔しそうに、どこか吐き捨てるように言葉を続ける。
「どうしたんだって聞いたら、優子にもらったんだって、嬉しそうに。あぁ、優子っていうのは同僚なんですけど」
「奥様は結婚前、同じ会社で働いておられたんですよね」
「はい」
短く頷く依頼人。その眉間には深い皺。
元同僚なら、別におかしなところはなさそうだけれど。
「同僚本人に聞いたんです。礼を言おうと思って……でも、知らないって、きょとんとされて」
「なるほど……」
「それどころか最近連絡も取ってないって。じゃあいつも誰とメールしてるんだってことになるでしょう? 優子が優子がって言ってたくせに」
「奥様とはそれについて話されました?」
「……いえ。男が居るなら知らないふりして泳がせたほうが賢いでしょう? 現にそれ以降、見慣れないものが増えた。どれも小さいもんですけど、それくらいなら気づかないと思うからじゃないですか」
なるほど。それで何度も再チャレンジしたわけか。今までの行動からすると理にかなっている気もするけれど。ただ、彼の主張はなんだか極端でどこか違和感がある気もして、それが実際、間男の存在を示すかどうかはわからなかった。まぁ、おかしな点があるのは間違いないから、調べてみる価値はあるのかもしれない。
上司は少し考え込むそぶりをし、微かに笑みを浮かべながら依頼人に視線を戻した。
「先ほど、欲しそうに見てた、とおっしゃいましたね。どこで見たか、覚えておられますか?」
「……えっと、確か、一緒に近所のスーパーに行った時です。入り口の近くにある雑貨屋にあって」
「髪飾りはどんなデザインでした?」
描いてください、とポケットから取り出した手帳から一枚引きちぎる。浅羽さんは時折手を止めながら記憶を辿り、十分ほどかけてラフを完成させた。
「っと、こんな感じの」
のぞき込んだ紙にはバレッタの絵があった。
スワロフスキー、いや、ファイヤーポリッシュ? カットの入った丸いビーズが並んだ、比較的シンプルなデザイン。その脇には小さな文字で説明が書き込まれていた。男からの贈り物を疑って観察していたのだろうか。随分と細かく特徴を捉えている。
「上等です。これだけ詳しければ、誰が買ったかわかるかもしれません」
上司の言葉に依頼人が目を丸くする。
「それだけでわかるんですか?」
ひらりとメモをかざしながら、実に楽しそうに、城ノ内紘は目を細める。
「浅羽さん、――うちは本来こっちのほうが得意分野なんですよ」
*
話が終わると依頼人は慌てて事務所を後にした。会社の休み時間をずらして来ていたらしい。
依頼人を見送ってすぐ、湯飲みを片付ける私の隣で、上司は早速携帯を手に取った。
「城ノ内と申しますが、店長お願い出来ますか?」
電話の相手は、おそらく件の雑貨屋だろう。
一ヶ月くらい前に、こんなデザインの青いバレッタを買っていった人のことを覚えているか。
そんな質問を通話口に投げかけている。
机の上のメモ帳に走り書きされる日付と時間。それはちょうど一ヶ月前の日曜日。
うんうんと頷きながら話すその口調はごく軽く、調査の順調を思わせた――のだけれど。
――……?
急に、上司が言葉に詰まる。ピクリと寄せられた眉。
「……いや、ごめん、大丈夫。その名前、もしかして、浅羽めぐみ?」
口に出されたのは聞き覚えのある名前。渦中の調査対象、浅羽夫人だ。
ピンと空気が冷たくなった気がした。無言で店長の言葉に耳を傾けている上司の様子を伺っていると、また少し眉間の皺が深くなる。向こう側の音声が聞こえないのがもどかしい。
「あー……そっか。ん、いや、ありがと。またなんか買いにいくよ」
そう言って電話を切った上司は、ふむ、と考え込むような表情をしていた。
「わからなかったんですか?」
「んー。さすがにそう上手くはいかないか」
残念、と苦笑する上司の表情に、逆に驚く。本当にそれだけの情報で、買った人物を特定出来る可能性があったのか。
「別にたいしたことじゃないよ。あそこの雑貨屋、アマチュアハンドメイド作家の委託受け付けてて、店にある髪飾り、全部一点ものだから」
「いや、だからって。お店の人が街中の人を把握してるわけじゃないでしょう?」
知り合いだった場合を除いて、例え店長が特徴を覚えていてどこそこにほくろがあったとか教えてもらえたとしても、その条件で該当者を導き出せるものなのか。上司なら出来かねない、なんて恐ろしいことを考えてしまうけれど。
「買ってくれた人用に作家のメールマガジンがあるんだよ。もちろん任意だけど、それで修理も無料になるから、登録していく人は多いみたい」
「その登録が奥さんの名前だったってことですか?」
買った人物が同僚だったとしてもその他の誰かだったとしても、サポートに関わってくるなら使う人の名前で登録したほうがいいのは確かだろう。ここにも別におかしなところはない。
「そ。アドレスはどうも相手の携帯アドレスっぽいけどね。なんも見ずに長いアドレスさらさら書いてたらしいし、浅羽夫人のものとは違ってた。さすがに教えてはもらえなかったけど、yu-koって入ってるって」
つまり登録されているのは浅羽夫人の名前に優子さんのメールアドレス。
「……まぁ、勝手に登録するのもよくないですし。サプライズのプレゼントで渡すまでは知られたくなくて、自分のアドレスを一時的な代わりに登録した、とかじゃないですか?」
「そんなとこかもね。でもそうなると、買ったのはやっぱりそのユウコさんの可能性が高いよね」
「え?」
思わず、眉を寄せる。
確かにこの状況で買った人間が優子さんじゃないとすると、そんな登録の仕方は不自然な気がする。自分のものでない名前と自分のものでないメールアドレス。もちろん、可能性ゼロとは言えないけれど。
「……はい、まぁ、お使いにしては面倒な内容ですけど」
「だよね。ちなみに、そのスーパーって鳳興産の近くだよ。休みの日にわざわざ誰かにお使い頼むより、仕事帰りに寄ったほうが早いくらい」
「……どういう意味ですか?」
なら単純に、優子さん本人だったんじゃないのか。
「店長、覚えてたんだよ。買った人」
もったいぶった言い方に、悪い予感がする。
「……どんな人、だったんですか?」
残念ながら、ここから先は好ましくない展開になりそうだと。
「――男、だったってさ。『金髪にピアスの無愛想なやつ』」
少し、悔しそうに。
上司が口にしたそれは、我が事務所の積み重ねた調査結果より、依頼人の主張のほうが正しかった可能性を示すものだった。
*
「あかりちゃん、今日ちょっと付き合えない?」
定時を過ぎ、帰り支度をしていると上司からそんな言葉が投げかけられた。
「例の件で、ちょっと友達と会うんだけど」
どうやら鳳興産で働く『友達』と約束を取り付けたらしい。
「……行っていいんですか?」
思わず尋ね返す。
数多く居るはずの上司の『友達』と、私はほとんど会ったことがない。彼らに会う場合、上司は大抵仕事終わりに外で会うし、事務所に来たことがある『友達』は沢村怜ただひとりだ。割合は知らないが、『友達』の中には上司の仕事を知らない人も多いらしいから、会わせないようにしているのかと思っていた。いや、まぁ、別に一緒に行きたいと思ったことがあるわけでもないのだけれど。
「もちろん。結構飲む奴らだから、君が居たほうが上機嫌で色々話してくれるかもしれないし」
「えっと、城ノ内さんの仕事のことは……?」
「知ってる。だから特に気をつけることもない。あ、業務情報だけは漏らさないようにね」
「失礼な。わかってますよ、そんなこと」
「冗談」
ふてくされて見せると、彼はくすりと笑ってパソコンに視線を戻した。
「約束までまだ時間あるし、もうちょっとだけ待っててくれる?」
「はい。あ、でも今日ちょっと本屋さん行きたいんで、この間に行ってきていいですか?」
よく寄り道する書店は事務所から二百メートルほどの場所にある。今日は買うものも決まっているし、ゆっくり行っても上司が仕事を終えるまでには戻ってこられるだろう。
「……いいけど、気をつけてね。携帯忘れないで」
そんなことを言いながら、再び視線をこちらに寄越した上司。別にいつも一緒に帰ってるわけでもあるまいに。心配性だなぁ、と苦笑しながら伊達眼鏡を掛けてみせる。
「十五分で戻ります」
笑顔で敬礼して、
「いってらっしゃい」
まだどこか心配そうな声に背を向けた。
特に何事もなく欲しかった本を手に入れた帰り道。
意外なものを見つけたのは、事務所のビルの前だった。
「浅羽さん……?」
ビルの影で入り口を伺うように立っていたのは、昼間事務所で話をした依頼人、浅羽宗一郎。
怪しむような顔をされてようやく自分が『変装』していることを思い出し、慌てて眼鏡を外す。
「あ、ああ、園田さんですか」
「どうかされましたか?」
「いや、あの、ちょっと」
「あ、お忘れ物でも? 私事務所に戻りますのでよろしければご一緒に――」
「園田さん、ちょっといいですか」
言葉の途中で彼の取った行動に、えっ、と自分の口から短い声が漏れた。
思い詰めた表情で、手を引かれる。痛いくらいに強い、握力。
「あ、あの……!」
戸惑う私の手を放すことなく、事務所を通り過ぎる形で浅羽さんはずんずんと進んでいく。
駅や商店街とは逆方向。少し離れただけで周りは薄暗く、人気がなくなってくる。
やっと、これは身の危険を感じるところなんだろうかと頭をよぎった時。
「ちょっ……」
古いビルとビルの間。浅羽さんは、そう広くはないその空間に私を押し込んだ。
――まずい。
奥は行き止まりで出口は浅羽さんが塞いでいる。彼が何をしたいのかはわからないが、とにかく袋の鼠というやつだ。
「園田さん」
掴まれたままの手が壁に押しつけられる。
打ちっ放しのコンクリートに、背中が擦れる。
痛くはないが身動きは取れない、計算された力加減。
近づく襟元に、
――あぁ、人生二回目だなぁ、この構図。
なんて、他人事のように思った。
「あなたのことを好きになってしまいました」
落ち着いた低音。いつもの憔悴した様子は、今はなく。それだけでも随分と印象が変わるものなのだと知る。
生まれて初めて自分に向けられた告白を聞き流しながら、一通り観察し終えて目を閉じる。
どうやら、色々と認識を改める必要がありそうだ。
「こんなことをしてすみません。ずっと、あなたのことが気になってて」
浅羽宗一郎のその声は、
「いつも優しくしてくれたのは、同情だってわかってます」
囁くように、
「それでも、傷心の僕は君の笑顔に救われたんです」
甘く、どこまでも甘く、
「好きになっても仕方ないと思いませんか?」
演出過剰の、愛を騙った。
「…………」
俯き加減に目を閉じたまま、私は短い口上を聞き終える。
――やっぱり駄目だ。
ひとつ息を吐き出して、顔を上げる。どうもこの構図の良さは、私には一生わかりそうにない。
熱を込めて見下ろしてくる目を、まっすぐに見つめ返して。
「放していただけますか」
無意識に漏れた笑みは多分、冷笑の類だった。浅羽さんが一瞬、怯んだ表情を見せる。
「……これは失礼。こういうのはお好みじゃなかったかな」
そう言って私の手を放す。けれど、解放するどころかより覆い被さるようにして、私の身体を囲った。ふざけた口調が真上から降り注ぐ。
近すぎる距離と、香水のにおい。あぁ、息苦しい。
「ええ、相手によるのかもしれませんけどね」
不愉快をそんな嫌みと笑顔に変えて、にっこりと微笑みかけてやる。
「……残念。君は俺に気があるかと思ったのに」
もしかして、昼間のお茶出しの時の話だろうか。『いつも優しくしてくれた』ってお茶出してただけだし、『笑顔に救われた』もなにも、私がこの人に笑いかけたのはあの一回だけだ。
それだけのことで、本気で自惚れて落とせると思っているならある意味才能だけれど。力加減といい、口説き文句といい、慣れているような感じはするのに、どうも杜撰で焦りが見える。
だから。
「目的をお聞きしましょうか」
率直に問うてみた。
「目的?」
「私を口説き落として、何がしたかったかです」
単なる遊びにしては強引すぎる。彼が焦る理由ですぐに考えつくのはひとつだけれど。
「言っておきますけど、うちの事務所に社員割引はありませんよ」
付け加えた言葉に、浅羽さんは馬鹿にしたような笑い声を上げた。
「はずれ」
目の前の男はさらに顔を寄せ、私の耳に流し込むように、
「教えてよ、あの所長さんのこと。どんなことでもいいからさ」
そんなことを、言ってきた。
――なるほど。そういうことか。
城ノ内紘の情報――それが、彼の目的。他の事務所では駄目なわけだ。
「……それについては、一度じっくりお話してみたいところですけど」
よいしょ、と。出来るだけ穏やかに、胸を押しのけて。
わずかに広がった隙間に自分の腕を差し入れる。そのまま人差し指をピンと立て、彼の眉間を指さした。
「――っ?」
面食らって私の指に固定されているその視線を、そのまま大通りのほうへ誘導する。
「残念ながら、時間切れです」
言葉を失う浅羽宗一郎の視線の先には、携帯片手の探偵が薄笑いで立っていた。
予想通りフリーズした浅羽さんの腕の囲いを下からひょいと抜け出して、上司のもとへ駆け寄る。
「遅いですよ、城ノ内さん」
むくれる私の頭を撫でながら、
「よくぞご無事で」
事務所に置いてきた鞄を手渡してくる。
「仕事は終わったんですか?」
「切り上げてきた」
私の問いにそう短く答える。
あぁ、そうか。無人になったら事務所閉めないといけないから。
そして、ひとり納得する私をよそに、彼はちらりと視線を奥へと戻し、
「浅羽さん、申し訳ありませんが、調査をお引き受けするのは今回が最後です」
冷たく、そう宣告した。
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