第213話 リアルにあるんだ

「桜雪さん…アレ車ですよね?」

 バイト先の大学生が僕に話しかけてきた。

「ん? どういうこと?」

 窓の外…港の先に黒い箱が浮いている。

「車…だね…」

「ですよね、黄色いのナンバーですよね」

「そうだね、軽自動車だね」

「落ちましたね」

「海に浮いてるんだから、そういうことだね」


 海に浮かぶ車…しばらくすると車が見えなくなった。

「沈んだね…」

「沈みましたね」

「出れましたかね?」

「水圧でドア開かないって言うよね…窓割れれば、なんとか出れるんじゃないかな」

「あそこ人だかりできてますけど、引き上げたんですかね」

「いや~自力で出たんじゃないかな~」


 バイトが終わって港に行くと、野次馬でいっぱい。

 警察に話しかけられ、見たまんまを伝えた。

「なるほど…落ちるところは見てないんですね?」

「はい、落ちて沈むまでは見てました」

「音は?」

「いや…あそこのホテルの窓から見てただけですから」


 しばらくするとダイバーが潜りだした。


「発見‼ 発見‼ 同乗者と接触できず‼」

「了解」


 一人は自力で出たようだが、他にも人が乗っていたようだ。

 ダイバーが上がってきた。

「1名救助‼」


 救助?助かったのか?

 随分、時間が経っているけど…


「もう1名取り残されています」

「了解」


 3人乗ってたんだ…

 傘を差して30分ほど見ていたが…飽きてきたし、何より寒かったので帰った。


 自殺にしては時間が早すぎるから事故なんだろうけど…

 今年は、あのホテルの窓から夏は水死体を見たし…なんだか嫌な年末になったな~。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る