第156話 割り箸は箸でございます

 アマゾンの森林火災…地球への影響も懸念される昨今、木の箸って臭くなるから…そんな理由で基本、割り箸で日々、過ごしている地球に厳しい桜雪です。


 そろそろ、高価な箸を購入するなり、プラスチックの箸を購入すべきではないか?

 そう思いつつ、割り箸でカップラーメンを食べております。


 割り箸で思い出すのは小学校時代のこと。

 ごはん給食の日は箸持参で登校しなければならないという面倒くささでございます。

 私は、当時から給食が嫌いでございます。

 理由ですか?

 マズイからです。

 そんなマズイ給食を食べなければならないうえに箸まで持参せよとの傲慢な小学校でございました。

 もちろん、従いませんよ。

 私は自分をよく知っております。

「どうせ忘れる」

 そして怒られる…食いたくもネェ給食のことで怒られるなんぞ我慢できるはずも無く、私は割り箸100膳を机に入れておりました。

 転ばぬ先の杖というやつであります。


 私、人格に難はございますが、性格は悪くないと自負しております。

 箸を忘れたウッカリ者の同級生に割り箸を分け与えておりました。

「良いのですよ…コレをお使いなさい」

 キリストです。


 そんなことで学年のイニシアチブを取って平和に過ごしていたある日のこと、忘れもしません放課後の学級会、クラスの面倒くさい女子が問題定義を挙げたのです。


「桜雪くんは、給食の時間に箸を持ってきてません、いけないと思います」

 コンパスで突き刺そうかと思いました。


「なにが悪いのでしょうか?」

 私は聞き返しました。

「皆、使った箸を洗い場で洗って持ち帰ることになっているのに、桜雪くんは割り箸を捨てているからです」

「あなたの家では割り箸を洗って再利用するのですか?」

「箸を持ってきて洗って持ち帰るために皆、箸を持ってきているのに…」

 洗い場に100人を超える児童が並び昼休みの大半は待ち時間で終了するというデスマーチに参加する気になれなかった私は、その時間の無意味さを説きました。

 実際、私が箸を貸し与えた使徒…いや同級生も私に同調していたのですが、ごく1部のクラスメイトは「いけない」を連呼するのです。

 なんなら先生たちにも割り箸を与えていたし、学年が違っても頼ってくれば渡していた私の割り箸は非常にありがたいアイテムであったと思います。


 議論は平行線を辿りました。

 そう私から箸を貰った担任も、この件には加担できなかったのです。


 毎週のように議論は続きました。

 そのうち、私に割り箸を返しにくる生徒が出てきたのです。

 箸を貰ったのではなく借りたということにして中立を保とうとしているのです。


 いつしか割り箸は貸し借りするものへ変わったのです。

 いつしか借用書が用意され、取り立てが横行し始めたのです。


 それはイジメを産み、借りた割り箸を返さないことは大罪となってしまったのです。


 時は流れ、いつの間にかクラスの大半は割り箸を用意するようになりました。

 そう…私の割り箸を責めた、あの愚かな女子までも…

 死んでも借りられない立場にありましたから…

 そして彼女から箸を借りると、恐ろしくしつこい取り立てが入るのです。


「愚かな事です…あまりに愚かなことです」

 私は嘆くことしかできなかったのでございます…。


 私は僅かな使途を連れ、昼休みを堪能し続けました。


 意味の無いルールに縛られると、本懐を見失うものです。

 My箸を持ってきて洗うことに何の意味があったのか?


「割り箸は箸と認められません!!」

 泣きながら愚かな彼女が訴えかける姿を今、思い出し、私は思うのでございます。


 やっぱ、あのときコンパスで刺しときゃよかった…と…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る