第58話 Y取締役

 入社の時から何かと目を掛けてくれた取締役。

 エライのに、関西人のノリで子供のような人だった。

 そこそこの規模の会社なので、本来接点など無いのだが、これがよく電話してくるのだ。

「桜雪くん、来週、そっち祭りあるんやろ?ボク行こうかな、丁度ソッチに用事があるんや」

「毎年来てますね…」

「そうか?偶然や」

 来ると、勤務中に呼び出されて、祭りに行くことになるのだ。仕事中でも…。

 見た目は痩せたヤクザで、よく喋る。

 ずっと喋ってる。

 露店を歩き屋台に顔出して喋りまくる。

 時折、差し入れが貰える…地元のヤクザの偉いさんと勘違いされて挨拶されてる始末…。

「あぁ…僕は、今この人の子分なんだろうな~傍から見たら…」


 ある時、会社に電話が掛かってきて…

「桜雪くん、アカン…頼みがあんねん、すぐ金貸してくれへん?」

「今、どこですか?」

「香港や」


 こんな人だった。

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