落ちたその後

@Nightray91

第1話夢に見える

夢を見た。酷く恐ろしい夢だった。

夢だったにも関わらず、最後の光景を忘れられない。

彼女が落ちていく姿、俺を悲しそうに見てデパートの屋上から落ちていく小夜の姿が脳裏に焼き付いている。


俺を迎えたのは、最近ようやく見慣れ始めた古い木造の天井だった。

勢い良く起き上がった俺の顔を冷や汗が伝う。体中寝汗で気持ちが悪い。


「どうしよう。小夜は・・・・」


覚醒したばかりの俺の頭には、まだ夢を夢として認識することができない。

飛び起きると部屋を飛び出して妹の部屋へ走っていく。


「小夜!」


俺が転がり込むように入った部屋に小夜は居ない。

ベッドには誰かが寝ていたようで温もりが残っている。まだだ、まだ遠くへは行っていない。


カサリ、と音がする。ふと自分の手を見ると、いつの間にか紙袋が握られていた。

確かあのデパートで小夜に渡そうと、色々とまとめておいた紙袋だ。

俺は包装に失敗したキャラメルを、小夜の使っている机に乱暴に置くと、簡単な上着を羽織り玄関に向かった。


外は真っ暗で、車すら通っていない深夜だった。

空に浮かんでいる真っ赤な月が、最低限の視界を確保している。

こんな静かな夜なんだきっとすぐに見つかる。俺は引き戸の鍵を閉めると通りへ出ることにした。



通りに出たところで、俺の足は行き先を見失っていた。

小夜がどんなところで遊んで、どんな友達と遊んでいるかなんて覚えていない。

本当の妹だと思ってきた。

小夜に怒られて逃げ出したあの山小屋から、小夜だけは守って見せようと思ったのに、何も小夜を理解出来ていなかった。

小夜がどんなところで遊んで、どんな友達が居るのかすら知らない。


小夜を探す心当たりが無いが、諦められるわけもなく当たりを慎重に見回りながら町を歩く。

車一つ居ない町はまるで俺だけが置いて行かれたように思えた。俺はまだ夢を見ているんだろうか、例えそうでも小夜を探さないなんてできるだろうか。

断じて否だった。


そんな時にスマホが鳴った。そう言えばなんで考え付かなかったんだろうか。

メールや電話があるじゃないか。どうやらメールが届いている。


[兄さんどこにいるの?帰ってきて]


思わず、落としてしまいそうになる。どうやら家に居るらしい。

どうしてすれ違ったのか。小夜を気づけない・・・・どうすれば・・・

相談すべき人たちは分かるし、相談にも行ける。

でもこの生活が壊れる・・・小夜は分かってくれるだろうか。


考えに反して体は勝手に動いていた。


[俺が小夜を見つけるために、少し長く家を空けると思う。古書堂には冷泉って知人を寄越す。絶対小夜を見つけられるようになって帰ってくるからな。]


そうメールを送ると、俺はちょっと遠い大学に向けて歩き出した。丁度始発の電車が走り出していた。

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