スターリーナイト・ワールドエンド

城流くじら

エンドローグ  星空の下で

 「ねえ鷹羽」

 「なんだよ」

 もうすっかりクッションが硬くなってしまっている座席に頭を預けて、俺と宵街はただひたすらに上を見上げていた。

 目に映るのは、背景を覆いつくすほどの圧倒的な数の光の粒子。

 その一つ一つを確かめるように観察しながら、時々アホのように開きそうになる顎の関節を自制して俺は返事を返した。

 隣で同じように天井を見上げ続ける宵街を横目で見やると、その嬉々とした表情がよく見える。

 満天の光に心をとらわれた宝石のような青みがかった瞳は、水晶のような透明さで視線の先の光を映し出していた。

 擬似的といえど今ここにある星空に、初めて目にする星空に、宵街は一体どんな思いを馳せるのだろう。

 「ありがとう」

 ぽつりと放り出されたその言葉は、少し震えていたような気がした。

 「気持ち悪いな、礼なんていいから黙って見てろよ」

 どこかくすぐったい感じがする。

 柄にもなく湧き出てきたそんな恥ずかしさを誤魔化すように、俺は頭の後ろで手を組んだ。

 俺たちの他には客はほとんどいなかった。

 静かな場内で、呼吸の音がやけによく響いた。

 「これはアンドロメダ座。秋の夜空に光る星座です」___そんなアナウンスも、きっと宵街の耳には届いていないだろう。

 あれだけ星の写真を見まくっていたのだからそもそもそんなアナウンスなんていらないのだろうが、真上に広がる星空に吸い込まれた瞳は、まるで夢でも見ているかのように陶酔しきっていた。

 少年心とかいうやつだろうか。ここ最近忘れていた感情を、宵街の表情でほんの少しだけ思い出した。

 「…………うん、ありがとう」

 すうっと息を吸い込む音が、いっそう大きく聞こえた。


 すぐ傍で、どんな星にも負けない光度の彗星が、瞳の中の銀河からほろりと流れ落ちた。

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