勇者がバグで浮浪者に
ノータリン
最悪の旅
「この日をもって貴殿を勇者とする」王様が俺に向かって言う
その日の式典が終わり俺は旅に出た
その日はモンスターにも出会わずに安全に最初の村に辿り着いた
だが、奇妙なことが一つ王の宮殿を出ても一つ目の村についても誰も来ないのだ
この世界では勇者が旅に出ると偶然により誰かが勇者御一行の一員になるはずなのに誰も現れない、それどころか勇者と言うと怪訝な顔をされる
妙な不安に駆られながらその日は床に就いた
次の日
宿屋を出て
「まずはどっかの民家に入ってアイテムの補充でもするか」と思って家に入ろうとするが、ドアが開かない鍵がかかっているのだ
ドアを叩いて「すいませーん勇者ですがー」と言うがなかなか出てこない留守なのかな?と思っていると
隣の民家から人が出てくる「助かった」と思い「あのー家に入れていただけないでしょうか?」と言いかけた時
「勇者だと?ふざけるな!また勇者の偽物か!?家に土足で上がり込んで物を全部かっぱらっていくつもりか!?」
「違う!俺は本物の勇者だ!」と声を荒げ「これを見てくれ!」と右腕の服をたくし上げるが何もない紋章が無い
「やっぱりお前も偽物か!」村人が声を荒げて物を投げてくるその音を口火に一斉の他の家々の窓から物が飛んでくる
「痛ぇ!何すんだお前ら!」と言うものの攻撃することも敵わず俺は村から逃げるように立ち去った
焦燥感が体から湧き上がる「何かの間違いだ...手違いなんだ...そうに違いないそうなんだ...」なんて独り言を言いながら荒野へと走る
そこでスライムを見つける「コイツを倒して...」無我夢中でスライムと戦った
そして、スライムを倒したときに気が付いた
「あれ...?金がドロップしな...い?」右腕を確認するがやはり紋章は現れない
「紋章が...ない」紋章というのは勇者を本物であると証明する物だ
勇者が魔王を倒してからというもの勇者が人の家に入って当たり前の様に壺を怖し薬草やなんやらを奪っていく姿を人々が見て
勇者のフリをして民家に入り勇者の様に財産を奪っていく勇者の真似をするものが続出
しまいには、勇者詐欺なんてものも流行る始末
これを見かねた王様が「勇者の紋章」と言うものを作る本物の勇者の場合は、右肩に紋章が浮かぶというわけだ
そして、王様から直々に使命を託された俺の右肩には勇者の紋章があるはずなのに無い
いったん王宮に帰って王に事情を話すことも考えたが王様は勇者に使命を託した後には勇者が何を言いに行っても同じことしか喋らないそれがこの世界のルールだ
通りで宮殿から出ても村に着いても誰もPTに入ろうとしないわけだ...と思いつつコレからどうするかを考える手持ちにはヒノキの棒一本おまけに金を手に入れる方法が無いときた
このままでは魔王退治どころか今晩の寝床すら確保できないとは言っても村には帰れそうにないし
応急措置として次の村に向かいつつ寝床を確保することにした
その日は人生初の野宿となった
火を起こして
魔物の肉とそこら辺の食えそうな葉っぱでくるんで食べた水も湖のを飲んだ
朝から最悪な気分だった
なんせ、金なし職無し寝床無しなわけだ
魔物を狩るにも道具を使うそれも消耗品だ
おまけに次の村までの距離が果てしないときた本来は馬車やらを使って行く距離を徒歩で行こうとしてるんだから致し方ないことなんだが...にしてもキツイ
昨日は湖を見つけれたし食える魔物も見つけたけれども今日がそうなる保証はない
とりあえず、血抜きしておいた余った肉を食いながら次の村を目指す
今日は昨日とは比べ物にならない暑さだ体力が半端じゃないくらいに削られていく
水分も湖の水をボトルに入れて持ってきた分しかないしこれ以上日の当たる場所を行くのは体力的にマズイと考え日陰で今晩の食料を取ることにしたが、食えそうな草木や果実は全くない
しょうがないので残り少ない肉を噛む続けて満腹中枢を刺激して昼間を凌ぎ夕暮れになったから移動を開始した
すぐにあたり一面真っ暗になると魔物の唸り声が聞こえ始めた
自分はほぼ丸裸の状態でジャングルにいて既にライオンに見つけられて唸り声をライオンが上げている状況だというと分かりやすいだろう
真っ暗でほとんど何も見えない中狙われる恐怖で頭がどうにかなりそうだったが、その場でうずくまったらその次がないことは分っていたので恐怖をかみ殺して進む
唸り声がなくなるまで進むと一気にひどい脱力感に襲われた。これなら昼間に進んだ方がマシかもしれないとまで思った。
だんだん、日が昇って来た
気が付くといつの間にか荒野にいた
疲れによる眠気が体を襲う
そして、同時に肉と水が尽きた
もしかしたら道中に水場があったのかもしれなかったが夜目の聞かない人間が見つけるのは到底無理な話だ
だが、天は俺を見放さなかった、地図によるともう少し進めば大きな水場がある
何としてもそこに行って水を確保してから寝床に就くことにした
だが、どれだけ進んでも水場が見つからない
地図によるととっくに見つかってるはずなのに...悪い予感が頭をよぎる
今考えられる最悪の予感・・・地図を見誤った
勇者の進む道の先に常に魔王が居ることがこの世界では偶然で必然のことなのだだから勇者はコンパスを持たないしもし、道に迷っても仲間が助けてくれる
俺は大きな誤解をしていた。勇者の紋章がなくとも勇者なんだからどこかで助けが来る。もしかすると馬車が通るかもしれない...なんとかなる。俺なら何とかできる
ずっっとそう思っていただが、それは違った。どこかで浮足立ってたのかもしれないそして気づいた時にはもう遅い
このままいくと俺は死ぬ。どうにもならずに野垂れ死にする
前の村に戻って
村の人々に事情を話せば何とかなるかもしれない
その考えが頭をよぎったが日差しの無い夜ならまだしも昼間に帰るのは自殺行為にか思えない地図もあてにならない
それに、今戻ったところで本当に村に帰れるのかすらも分からない
「ハラへっ...たなぁ、、、ノドも渇く...」頭には不安しか浮かばず体も悲鳴を上げている
昨日の夜からほとんど一面平坦な不毛の地を歩き続けている
日差しから身を守る場所すら存在しない
昨日最悪だと思ってた森が天国に思えてきた、頃見えた...「みえ゛だ!」渇いた喉が声を上げる
水場があったのだ
死ぬに物狂いで走った
もしかしたら魔物の選挙している場所かもしれなかったがそんなことを考える余裕はなかった
無我夢中で走ったその時は体の痛みも何も感じなかった
身体の底から湧き上がる水への衝動と欲求に駆られて体が動いた
水を体に流し込んだ口どころか顔を漬けて飲んだ
あまりにも興奮していたため気管と鼻に水が入ったらしく痛かったし咽たが気にせずに飲み続けた
身体が水で満足した後に俺は倒れた
次に起きた時には朝だった
どれくらい寝ていたのか分からなかったが何故か生きていた
普通なら装備もほどんど無いダダの人間が水辺に転がっていたら無事なわけはないんだが生きていた
「あれ...?生きてる??え?」自分でも生きてることが不思議でならなかった
「くっつせえ!」頭と体が冷静になって余裕が出てくるとこういう事に気づきだす
恐らく魔物たちもこんな腐ったように臭い人間を食べる気が沸かなかったのだろうと思った
水で腹がいっぱいになったせいか不思議と空腹感が無かった
とりあえず水をボトルに入れて次の町までの道のりを進むことにした
水を汲んでいるときに気づいたのだが水はお世辞にも綺麗とは言えない水だった
そのせいもあって魔物に襲われなかったのかと思いつつ
人間がけっぷちに立てば魔物も避けるような水も美味いと思いながら飲めることに驚いていた
地図を見ると森が見える
目の前にあるのは森
これが地図のそれと同じであることを信じて歩を進める
水を飲んだことでかなり気力体力共に回復したのだろうその日は疲れも感じずサクサク進んだ
森を抜ければ次の町が目と鼻の先にあることもモチベーション向上に繋がったのだろう
その日はひたすらに歩き続けた
いつの間にか周りの風景が変わっていた
まさか一日で森を抜けるなんてな
なんてことを思いつつあと少しの道のりに歩を進めようとした時
勇者が歩いているのが目に入った
しかも、大所帯だ
俺は勇者のPTに入れてもらうことにした
第一次の町についても何かする予定があったわけでも無いんだ、魔王退治という当初の目的が果たせるなら俺が勇者じゃなくてもいいや
と思い
さっそく勇者の方に走っていく
「そこの勇者ー!俺をどうかPTに入れてくれないか!?」
と言った時にその声がかき消されるような大きな呻き声が聞こえた
勇者がこちらに気づいて視線を鋭くする。
もしかしたら俺の後ろに魔物がいるのかもしれない!
そう思うと無性に怖くなって「助けてーーー!」と言いながら勇者の方へ全力で走る
それと同時にまた、魔物が唸り声を上げる。それもだんだん近づいてきてる気がする
勇者は剣に手を掛けると横なぎに払った
「え?」思わず声が出る
一瞬にして胴から上と下で真っ二つになってしまった
頭が止まった
身体が横なぎにされた事実を理解できても受け入れられない
勇者の方に顔を上げると
「ちっ、腐った死体かよくせーんだよテメーは」と言って勇者が俺の首を跳ねる
勇者の横で女の子が「キャーーーなにコイツキモイしめちゃくちゃクサイじゃん!怖ーい」なんて言いながら勇者の腕に抱きつく
「大丈夫だよ、、どんな魔物が来ても俺が守ってあげるから、今晩は次の村で...ね?」なんてことを言って立ち去っていった
俺は自分の体を見て気づく
あ、俺死んで腐った死体になってたんだ
人生なんとかならねーもんだな
なんてことを呑気に思いながら寝た
勇者がバグで浮浪者に ノータリン @bjl
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