第59話おばあちゃんとヤクルト編⑦

駅前交番に到着すると、そこには祖母とタクシーの運転手がおり、なにやら揉めていた。

僕が運転手から話を聞く。


「こちらのおばあちゃんがタクシーにお乗りになり、◯◯寺までとおっしゃったので、そちらにお送りしたんです。でも実は⚫⚫寺に行きたかったとおっしゃられて。もう到着した後におっしゃられて。メーターも4000円ほどいってましたので。どうしたものかと思って交番にお連れしたんです。」


すると祖母が口を挟んでくる。

「嘘や!この人は嘘をついとる!わては、⚫⚫寺と、ちゃんと言ったんや!」


まさに水掛け論である。

しかし客観的に考えて、タクシーの運転手が嘘をついてるとは思えなかった。

たかが4000円のメーターの料金を欲しいがために、祖母を騙すだろうか?

こうして交番まで来るだろうか?

たしかに僕ら家族でも、祖母が何を言っているのかわからない時が何度もある。

赤の他人が一度で祖母の話を聞き取れないのも無理はない。

僕はそう思った。


「ご迷惑おかけしました。料金はきちんとお支払いします。」

僕は忙しいホールを抜けてきたので、すぐに話を解決したくて、運転手に4000円を渡そうとした。

その手を祖母が掴む。


「あかん!おさむ!渡したらあかん!わてはきちんと言ったんや!こいつが嘘をついてるねや!」

僕はたまらず、祖母に言った。

「きちんと言うた事が相手に伝わってなかったんや!仕方ないやろ!」


お金を置いて交番から飛び出そうとする僕に、祖母が必死の形相ですがり付いてきた。

目から涙を流し、両手で僕の手を掴み、必死で叫んだ。


「おさむ!信じて!わては、きちんと言ったんや!信じて!おさむ!」


「うるさい!!」

僕は祖母の手を振りほどいた。


「もう、これ以上他人に迷惑かけるな!もう、外をうろちょろすんなや!ずっと家にいとけ!!」


祖母の手を振りほどき、僕は交番を飛び出した。


あんなに優しいかった祖母の手。

幼い僕の頭を撫でてくれた、あの祖母の手。

僕にヤクルトをくれた、あの祖母の手。


そんな祖母の手を、僕は無情にも振りほどいたのだ・・・

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