第56話おばあちゃんとヤクルト編④

僕が近所のパチンコ屋でアルバイトを初めた理由。

時給が高くて家から近かったからだ。

しかし、予想どおり、祖母が毎日打ちに来る。

さらには、

「うちの孫ですねや。」

顔見知りのお客さん全員に言ってまわる。

「よーく、顔似てますやん!」

知らない人達からどんどん声をかけられる。

もともとそこの店の主任とも顔見知りだったし、恥ずかしいったらありゃしない。


しかし数ヶ月後、芸人としてテレビ出演という大きな仕事が連続で決まる。

さらに、すぐに打ち合わせに来てくれ。と先方がいうので、僕はさっくり無断欠勤して飛んでしまう。


飛んだ次の日、朝早くから祖母に起こされる。

「お店に連絡せんかいな!主任さんもみんな心配しとったんやで!」

「うっさいなー!!」


さんざん自分の孫だとみんなに紹介してくれたのに、とうの本人は無断欠勤の無断退社。

とんだ迷惑である。

毎日そこの店に打ちに行っている祖母の顔を完全に潰した。

考えれば考えるほど、やはりあの店にはもう行きづらく、とうとう最後まで電話の一本もしなかった。


さらにテレビ出演が終わり、バイトをしていない僕は、速攻で金欠に陥った。

その頃初めて遊びで打ったパチンコで勝ち、調子にのって毎日打っていたら、貯金も有り金も全部使い果たしてしまった。

もちろんそのテレビ出演のギャラさえも。


深夜にむっくり起きた僕は、家の中を徘徊する。居間に置いてある、祖母のカバン。

持ち上げると、じゃりっ!と音がする。


祖母はパチンコするために大量の500円硬貨を両替し、常にカバンに入れていた。

「こんなの、一枚二枚なくったって、気付くもんか。」

毎日僕は、祖母のカバンから500円硬貨を盗み、そのお金でパチンコして生活するようになる。


クズだ。正真正銘のクズ人間の生活に堕ちていた。


中途半端にテレビに顔が写ると、なかなか次のアルバイトがしずらいのだ。

そうとはいえ、祖母のお金にまで手をつける。

あの頃の僕は本当にクズだった。


ある晩、祖母のカバンを持ち上げると、いつもより重い!

さぞかし大量の500円硬貨が入っているのだろう!

期待して手を突っ込み、引っ張りだすと、それは大量のヤクルトだった。


「くそっ!」


僕は床にヤクルトを叩きつけた。

あんなに大好きだったヤクルトを、無下に扱う僕。

こんな男に、天罰が下らないわけがない・・・

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