8/17 あんかけ炒飯

あの日、私は取り返しの付かない失敗をした。

詳しい説明など見ずとも出来るだろうと高を括っていたのがいけなかった。

その時の衝撃は今でも忘れられない。いや、忘れてはいけない。

今後同じ事は起こすまいと、戒めとして日常の片隅に記憶している。

こうして、中華鍋を振る度に思い出すのだ。


あの日、私はあんかけ炒飯を作ろうとしていた。

理由は特にない。

ただ、あんかけ炒飯を食べてみたかっただけだ。


パラパラの炒飯にあんをかけてしっとりとさせるという、炒飯の特性を無に還すかのような異形の料理。それがあんかけ炒飯。

単に出来上がった炒飯に中華あんをかけるだけなのだが、ただあんを作ってかけるだけではなく、あんに蟹や海老や烏賊などの海鮮類を入れたり、玉子を溶いたりと、炒飯の味付けとあんの味付けの組み合わせで無限の可能性を秘めている神秘の中華料理だ。

私はこのあんかけ炒飯を作ろうとして、取り返しのつかない失敗をしたのだ。


あの日、私はまず炒飯を作った。

具はチャーシューと白葱と玉子だけの、基本的な炒飯。

そのまま食べてもよいが、なんとなくあんかけにしてみたくなった。

一度炒飯を皿に盛り、中華鍋を再度火に掛け、そこに中華スープを入れる。

沸騰してきたら酒、醤油で味付けし、少しだけ胡麻油を垂らす。

そして、あんにするために水溶き片栗粉を少量ずつ入れ、とろみを付けた。

ここまでは良かった。

そもそも、本来は失敗のしようが無い。

ここからは残り一手順であんかけ炒飯が完成する。この一手順で失敗するなんて誰が考えるのか。


中華鍋でぶくぶくと泡を出す中華あんを見ながら、この時、何故か私は、皿に盛った炒飯を手に取り、


そして数秒経過してから気付く。

あんかけ炒飯は炒飯にあんをかけるのだ!!!!???



それから慌てて鍋の中身を取り出したが、既にパラパラした炒飯は存在せず、あんと一体化した炒飯の味のするお粥だけが存在していた。


これが、あの日私が犯した取り返しの付かない失敗だ。

あんかけ炒飯ではなく、炒飯かけあんを作ってしまったのだ。

全ては私の傲慢さが原因だ。もっとしっかりとあんかけ炒飯の作り方の手順を確認していけば良かったのだ。

それを怠ってしまったから、このような悲劇が起きたのだ。


私はこの失敗を戒めとし、二度とこのような悲劇が起きないように中華鍋を振っている。

どうか、世界中のあんかけ炒飯を作ろうとする者は私と同じ過ちを犯さないようにして欲しい。

あんな思いをするのは私一人だけで十分だ。

あんかけ炒飯は、炒飯にあんをかけるのだ。それを忘れないでくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る