星の月

8/1 ホットドッグ

ソーセージ。

それは肉を挽いてぐずぐずにした後、香辛料を混ぜ込んで動物の胃や腸に詰め込み、茹でたり燻製する事で保存性を上げた携行食だ。

そのままでは固くて食べにくい肉や、骨や皮に残った肉片を有効活用出来るという事で、世界の至る所で作られてきた。

肉の保存食と言えばハムが有名だが、ソーセージはハムよりも自由な味付けと塊肉ではなくとも作れる事が特徴である。

ちなみに、この国ではウインナーという名前のほうが知名度が高いが、ウインナーはソーセージの分類の一つであり、パスタの中のスパゲッティや、パンの中の食パンと言った感じだ。


このソーセージという料理、挽肉を詰めてあることからか同じ量の塊の肉よりも肉汁が多く出るようになっており、そのまま食べるだけでなく煮物に使うと良い出汁が出る。

しかし、ソーセージの旨味はその肉汁に詰まっているわけであり、出来る事ならば肉汁ごとソーセージを食べるのが一番良い。

皮が傷つかないように低温でじっくりと焼き、中まで火が通った物にマスタードをつけて食べるのが殊更に美味いのだ。

出来れば一口で頬張って口の中で肉汁が溢れるようにするのが最高に美味い食べ方なのだが、肉汁は大元の肉が大きければ大きいほどに沢山溢れる物であり、ソーセージもその類に漏れず大きい物ほど美味い肉汁が大量に出る。

だが、大きいソーセージは一口で食べる事が出来ず、必ず途中で折れてしまう。

すると、その折れた断面から肉汁が零れてしまい、美味い部分が逃げてしまう。

皿の上で切り分ければ肉汁を別に取っておくことは出来るだろうが、ソーセージと肉汁を別々に食べるのはソーセージの食べ方として正しくない。肉汁を一緒に食べるからこそソーセージなのだ。


ならば、一体どうすればソーセージと肉汁を一緒に味わえるかというと、ホットドッグにして食べるのが最適解となる。


ホットドッグは特に難しい料理でもなんでもない。単純に焼いたソーセージを焼いたパンに挟んだだけだ。

だが、このパンに挟むという行為がとても重要なのである。


何故ならば、パンにソーセージを挟んだまま噛り付くと、からである。


ソーセージを一口で食べきれない場合、どうしても肉汁が外に溢れてしまう。

それならば、その溢れる肉汁をパンに吸わせ、その肉汁を吸ったパンごと一緒に食べてしまえば良い。

単純にして明快な答えだ。これ以上のソーセージの食べ方は他にあるまい。


ホットドッグはソーセージを一番美味く食べる方法であり、一番簡単なソーセージを使った料理なのだ。

単純な物こそ極みの境地に辿り着くという良い見本であり、基本こそ奥義だという事実である。


ただのソーセージの食べ方一つでも、中々に奥深い。

これだから料理というのは面白いな。もっと精進しなくては。

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