7/17 豚麺つゆ

今日はちょっとした都合でビジネス街にスーツで来ていたのだが、途轍もなく暑い。

信号待ちをしているだけで汗が止め処なく流れてくる。


夏だから暑いのは当たり前なのだが、ビルが乱雑に立ち並ぶビジネス街は風の巡りが悪く、アスファルトやコンクリートが熱を保つので気温以上に暑く感じる。

また、ほぼ全てのビルが内部を涼しくするために熱を外に排出しているので、中心区域に行けば行くほど周囲の気温は高くなっていく。


この、『自分に不必要な物は余所へ押し付ける』という考え方はどこにでもあるのだな。

『周りがやっているのに自分だけ我慢したくない』という考え方もそうだ。


一人一人が意識を変えれば全体の考え方も変わると言うが、実際にはそんな事は不可能だろう。

自ら困難な道を選ぶ者はそう居ない。居たとしても周りに連れ戻されて同じ道を歩むことになる。

それが善行であっても、周りと同調しない者のはその集団から悪とされるのだ。

そんな世の中だからこそ、私は……


と、考え事をしていると信号が青になったのに気付いていなかった。

歩行者用信号は既に点滅を始め、横を通過とする車は少しずつ前を詰めようとしている。

こんな暑い場所で再度信号が変わるのを待つのは勘弁願いたいので、慣れないビジネスシューズで靴擦れが出来そうになるのを構わずに走った。




帰宅は丁度、昼を廻った頃だった。

はぁ。

寝起きにシャワーを浴びたというのに、もう汗だくだ。不快感がすごい。

何かあると直ぐにスーツを着ろと言ってくる部分はこの国の悪い所だな。

もっと楽な格好でもいいだろう。こんな暑い日なら水着でいい。水着で。

そして街角にシャワーを設置して、誰でも無料で自由に使えるようにすれば良い。

われながら良い考えだと思う。嘆願書でも出してみるか?


そんな行政への要望を考えながら、昼食の準備をする。

こうも暑いと食欲が涌きにくいが、汗を掻いたので水分や塩分を補給しなくてはならない。

そういう時に最適なのが麺つゆだ。

しかもただの麺つゆではない。夏に不足しがちな栄養を摂取できる豚麺つゆだ。


まずは鍋に鰹出汁、酒、味醂を4:1:1で入れる。

普通の麺つゆを作るだけならば鰹出汁は3の割合にするが、豚麺つゆの場合は少し出汁を多くする。

そして火にかける前に小口切りにした茗荷、生姜、大蒜を入れる。

好みで大葉や山椒の実なんかも良い。麺つゆに合いそうな香草なら何でも良い。

辛い物好きならば唐辛子もいいだろう。消毒と殺菌効果で風邪予防にもなる。

そして火にかけ、沸騰したらここで適度な大きさに切った豚バラ肉を入れる。

後は肉に火が通るまで煮込み、火を止めて荒熱を取ってから容器に入れて冷蔵庫で冷やす。


これを予め作っておけば、後は乾麺を茹でるだけで夏に最適な豚麺を食べる事が出来る。

サラダにかければ冷しゃぶにもなるし、この豚麺つゆを薄めて煮物を作るのも有りだ。


麺つゆと言えば悲しい思い出があるが、私は常に進化しているので、もう先月のような失態はしないだろう。

あのお陰で色々とこの国の料理について調べ始めたのだ。

転んでもただでは起きないとはこの事だな。

夏を成敗するにはまだ実力が足りないが、何時かきっとこの暑さも克服してみせる。

それまで、せいぜい首を洗って待っているのだな、夏よ。覚悟しておけ。






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