6/22 牛丼 生卵付き

甘い味付けの卵はおかずにならないと思う。


甘い玉子焼きは素より、牛乳を混ぜた卵液で作るオムレツもそうだ。

カステラやカスタードクリームは大丈夫なので甘い卵が駄目なわけではなく、おかずとしての甘い卵が許せない。

おかずにするのならしょっぱさが必要なのだ。


そのため、私は牛丼に生卵をかけて食べるのも好きではない。

牛丼のつゆの味と卵がうまく混ざらなく、甘さだけが際立ってしまう。

牛丼は卵をかけて食べる物ではないと、牛丼を初めて食べたときからずっと思っていた。


しかし、よく行く牛丼屋のチェーン店は月終わりに次月に使えるクーポンを渡してくれるようになっており、これに毎回生卵無料券が付いてくるのだ。

クーポン券一枚につき二枚分の生卵無料券が付いており、無料というからには使わねばならないという気分になる。


与えられた権利を使わない事を選ぶのは自由だが、そうして使う物をえり好み出来るのは一握りの恵まれた者だけだ。

今の自分が使用できる物はどんな物でも使う。

それが戦場で生き残るための秘訣であり、使うのをもったいぶっていては自分がやられてしまう。

ましてや食事など次にいつ取れるのか分からない物だ。多少好き嫌いがあっても無理にでも栄養を摂取する必要がある。


だから、好みではない事を我慢しつつ、クーポン券を使って卵を無理矢理にでも食べていた。

卵かけご飯なら問題無いのだ。醤油だけだし。

だが、牛丼だとつゆの甘さが変に主張するのだ。

この甘さが嫌になる。速く終わってくれと噛まずに飲み込んでしまう。


毎回涙目になりながら卵をかけた牛丼を食べていたのだが、先ほど、ふと気付いた。


『混ぜ方が違うのではないか』


と。

それに気付いた私は颯爽と牛丼屋へ赴き、券売機で牛丼(並)の食券を購入し、クーポン券から卵無料券を切り離して席に着く。

店員に食券とクーポン券が回収され、数分と待たずにやってくる牛丼と生卵。

牛丼に手をつける前に生卵を容器に割って箸でよく掻き混ぜる。


そして、その


そうだ。これが私の考えた牛丼と生卵の正しい食べ方だ。

牛丼に卵をかける上手く混ざらなくて喧嘩をするので、それならば牛丼ではなくしてしまえばいいのだ、

このまま生卵と混ざった牛丼の具をおかずに、牛丼のつゆのかかったご飯を食べるのだ。

この方法ならご飯に紅生姜を乗せても生卵とも喧嘩しないし、丼が卵で汚れることも無い。


完璧だ。完璧過ぎる。

私は勝ったのだ。牛丼の生卵に打ち勝ったのだ。完全勝利だ。

この偉功は早速広めねば。

私の他にも甘い味付けの卵が苦手で、牛丼と生卵を我慢して食べている者が居るはずだ。

そんな彼等に『もう無理しなくても良い、こうすれば美味くなる』と言ってやるのだ。

そして彼等はこの私に感謝するだろう。もう牛丼と卵に苦しめられずに済むのだと。


今日はすごい事を発見してしまったな。

これはもう記念日の設立を検討するべきだ。

ああ、この才能溢れる頭脳を持った自分が恐ろしい。

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