プレッジ・リング
外崎 柊
想
妻が逝った。
覚悟はできているつもりだった。
病室のベッドに取りすがって泣く子供たちの後ろで、言葉にならず、うつむいて、ただ涙があふれた。
妻が最後に笑ったのはいつだったか、私はおぼろげな記憶を辿っていた。
亡くなる少し前。
結婚式を想いだして、指輪の交換をこの病室でしようかと、少し冗談めかして私は言った。
「そんなの照れくさいわ」と妻がうっすら笑うと、そうかなと気恥ずかしくなった。
私の上着のポケットには、お互いのイニシャルを刻んだペアのプラチナ・リングがあった。
作ってはみたものの、結局は出せず終いだった。
「ありがとう、今まで世話をかけたね」
うまく声にならなかった。
私は妻の分の新しい指輪を、力の抜けてしまった指先にそっと通した。
私の記憶よりも、妻の指は痩せて細く、指輪は少し大きかった。
「先にこれを持って行ってくれ」
妻の表情は穏やかで微笑をたたえているかのようにも見えた。
残ったこの指輪には今日の日付を刻もう、私は心にそう決めていた。
プレッジ・リング 外崎 柊 @maoshu07
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