第三節

 研修期間が始まり早一ヶ月がたった。

 導入された研究員達は、選択化された専門科に配属され、科をチームとし、各々研究に取りかかり始めていた。

 覚えることや、その探究心は紛れもない本物である為か、やはりコクトの選別は正しく、既に研修を終え始めた研究員がちらほらと出てきている。


「……が、現在の報告かな」

 研究所に隣接された事務ビル。

 その中に一人ポツンッと働いているはずのコクトの元に、初期の四人が集って経過報告を行っていた。

「若いって良いねぇ~。あんなに飲み込み早いの良いわ~俺も懐かしいわ~」

「まだ二〇代でしょアンタも」

「前半と後半じゃもう身体が痛み出すか痛み出さないかだよ」

「old……」

「……んん」

 レイコとカイロの無駄話に、変に老いに対して関心を出すセシルと、既に二十代をとっくに通り過ぎている自分は何なのだろうか? と謎の疑心暗鬼に悩まされているミタニ。


 ちなみに、レイコに至っては三〇歳に突入しており、今年で三一となる。

 世間一般から見た彼女は「ルックスは良いけど研究に没頭し過ぎて生き遅れた残念美人(少女身長)」というレッテルを貼られていても可笑しくは無いだろう(影でカイロがぼやいていたりもしたが……)。


「まあ、着々と使えるようになったなら良いかもな。今後を担う若い子でもある訳だし」

「いや、アンタも若いでしょ。言ってないだけでアンタ今年で一九でしょ」

「……三十路」

「何つっっったカイロォォォォォォ!!」


 この二人は険悪なのか仲が良いのか解らない。

 打ち解けてからは二人の喧嘩が日常になってきていた。


 因みに、一方的なカイロへの実害(主に跳び蹴り)は出ている。


「っててて……あ、コクトちゃん、一回研究員ちゃん達見てみたら?」

「ん?」

「ああ、そうじゃのう。仮にもここの責任者じゃろう。面子は立てておいた方が良いだろうな」

「面子って程でも無いけど、アンタ最近籠もりっぱなしでしょ? そろそろ顔忘れられるわよ?」


「ん、んんっ……」

 苦しい咳払いを吐き捨てる。

 よくよく考えてみれば、最近誰かに会ったのはコトと、フレンズ化の時の研究員とイエネコの時だけであった。

 初期の研究員達も一応は総務課代理としてこの事務所の空席を使ってはいるものの、研修に忙しく事務所に立ち寄ることは早々無い。

 対しコクトは外報の連絡や交渉によって日中夜缶詰だ。


 懐かしくも髪の毛はボサボサッとし、目の下のクマも再発し始めていた。


「まぁ、一段落ついたし回ってはおくか~」

「あ、ついでだけど、フレンズも同じくよ。偶に会うフレンズ達から「コクト行方不明になったの?」って言われてる始末よ」

「そろそろコクトちゃんの捜索願ポスター出しちゃう?」

「Game of TagのStartですね!」

「タッグ……なに??」

「Game of Tag.鬼ごっこデスネ♪」

「そんな映画あったわね」

「佐藤さん?」

「やめろ……銀蓮なんて名前多分私だけなんだから。解ったよ行くよ行きますよ行けば良いんでしょ」

「そうそう、息抜き大事だよ~。またサーフィン行こうぜ~」

「それは……また後な。あ、あと……」

「何よ?」


 コクトは、恐る恐ると彼等に一つ懇願した。

 そんな彼の姿は、初めて見る下手したてな動きで、こう言ってきた。


「行くの、明日で良い?」

「サッサと行ってきなさいバカ!!!!」

「あーーーーーーー引っ張らないでぇぇぇぇぇぇ……」


 レイコに無理矢理白衣を引っ掴まれ、コクトは何の威厳の無い姿のままズルズルと事務所を出て行った。


「階段! せめて階段は歩かせて!! 痛い! 痛いから! レイコさぁぁぁん!!」



「Hey! まずはここ、Control Command Center、管制司令室デス。通称CCCデスネ。ここではレイコサンとcooperationして、常にdata collectionをし、的確なInstructionを出せるようにしていマース!」

「……、」

 セシルの案内で管制司令室まで足を運んできたコクト。他のメンバーは研修に戻ると言うことでその場で会うことになっている。

 まあ、一番の問題としては、今のコクトが全体的にボロッとしているところだろうか。


「Ah……、ドンマイデス」

「あ、あぁ……」

 コクトは窶れ気味になりながらも、通常の状態を取り戻そうと深呼吸をする。


「では、Let's Goデス!」

 軽快にセシルはスライド式の自動ドアを通り中に入っていった。


(……あれ? もしかして中の研究員ってセシルの性格に毒されてないよな?)



 中は予想よりも広く、幾つもの端末や画面が設置されており、巨大モニターには各地の映像がリアルタイムで流されている。

 映っているのは要所要所、大きな場所やフレンズのたまり場など、公にさらせる部分が主であったり、サンドスターが溢れ出す山岳火口の映像も出される。


 何度も言うが、動物の個人情報(というか、私生活を映すような映像)に関しては、レイコからの直談判であり以下略である。


「そういえば、此所こんなに広かったんだな」

「設計希望した本人が言いマスカ……」


「こんにちはー」

「ああ、こんにちは……、結構フレンドリーだな」

「ええ、此所では互いの情報共有が必要となるので、なるべくフレンドリーに接することで気兼ねなく話せるConcernを作っているのデス。Hallo!!」

 セシルは近くを通った研究員に向かって挨拶を放つ。この管制塔は結構関係性がラフなようで、よく見れば周りの研究員達は画面に向かっているもの以外にも、近くで互いの意見を話し合ったり、コップを片手に談笑している研究員もいる。

(そう言えば、アメリカ辺りでは結構会社規律が堅苦しくないところが多かったな……案外ココもそれを導入するべきかもな)

「ハロー、セシル。……その人は確か」

「One moment, please.」


 ちょっと待ってくれ、とセシルが研究員を止めると、セシルは大きな声で、研究員達を招集した。


「Please join us!」


 その声に反応してか、研究員達が何だ何だ? とどんどん此方へと集まってきた。

「ミナサーン、今日は所長が来たので、ちょっとGreetingしましょうネー」

「はーい」

(あ、思ったより軽い。何か小児科思い出す)


「お久しぶりですね、皆さん。コクトです。宜しく」

「「「「「……、」」」」」

「……ん? どうしましたか?」

「え、えっとー……何歳ですか?」


「……、」

「……ンッッ! ンッフフ」


 聞かれるとは思っていた質問だが、何となく息詰まってしまう。

 横にいるセシルに至っては何故かこみ上げた笑いを必死に押し殺そうとまでしている。


「ま、まぁ……秘密だ」

「成る程、謎の所長なんですね」

「!?」

「おお、何かカッケー!!」

「若作りかな?」


(ヤバイ、この管制室思ったより緩い……)



「あー……手始めに、現在の研究成果を教えてくれないか?」

 気を取り直し、コクトは研究員達に現在の状況を問う。

 彼としても、研究を進めてくれているか若干は不安があった。彼とて相手が手練れた新人であっても、セシルの研修下にいても、不安は無い訳でも無かったのだ。


「了解です。まずフレンズ達の生体なのですが、彼女たちは基本動物としての性格やその生態情報と同じような生活が多く見られます。穴を掘ることや生息地域、性格的な一面に関しましても動物の由来に近いものを残しているようで、どうやらフレンズ化は個々によってフレンズ化による生態情報の反映が別れるものと推測できます。さらにセルリアン情報としましても種別……と言うよりは個体別に得意な性格が別れているようで、速さ、力、技術に関しましてでもですが、謂わば何かに特化したセルリアンも現在多く確認しており、此処に固定的観念を決定づける事を避けての調査が重要になってくると思われます。コレに関しましてはセルリアンの個体事の特性によってレベル別けをし、小型はレベル1。中型や得意生態持ちはレベル2。大型や特性の強さによってはレベル3と別けても構わないと思われます。このレベル性に関しましては今後の調査次第で明確化を検討しています」

「……、」

「……所長?」

「あ、あぁ。すまない」

 顔に出さずとも、彼は素直に驚いていた。

 彼等の研究への探究心は間違いでは無かった。

 彼等を選定した自分の目には狂いは無かった。

 この部署へ派遣したことは間違いでは無かった。


 その答え合わせのような巡る思考の中に、間違いが無かったことを安堵し、また更に成長するであろう彼等に希望を抱いていたのだ。


 無論、彼等を導いたセシルもそうだが、横目で見るや否やドヤッと鼻高々に自慢げな顔をしている彼を見て褒めることを辞めた。

「ご苦労。調査報告ありがとう。次いでと言っては何だが、フレンズ関しては食の好みや健康状態など、動物としてでは無く人と同じようなアプローチを試みてはどうだろうか? それと、セルリアンに対してだが、奴らにもきっと得意不得意があるはずだ。生態調査も良いが、彼等の弱点を探ることに関しても入念にチェックして欲しい。レベルに関してはとても良い案だ。外部との連絡の際も説明を省略できるようになるはずだ。検討を宜しく頼むよ……君たち?」

「う、う……」

 彼等に説明を説いていたコクトだったが、そのうちに彼等が自分を見る目が変わっていることが解り、反応せずにどもるその声に少々不安を感じ始めていた。


 何かしてしまっただろうか?

「ドクターなのに……」とでも思われただろうか?

 彼等の研究成果に傷をつけてしまっただろうか?


 彼なりに疑心が生まれ、その静寂が少々窮屈になって来始めた頃、一番前にいた若手の研究員が第一に声を上げていった。

「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!! 凄い参考になります! ありがとうございます!!」

「うぇ!? あ、あぁ……それなら良かっ……た?」

「はい! やはり凄いですね所長は。フレンズを動物としてでは無く同じ人としても見るという洞察に対する考え。更には今後に生かす為の解決策まで……参考になります!!」

「そ、そうか。それなら良かったよ」


 ぶんぶんと手を握られ熱い握手をされ、コクトの体は激しく揺れる。

 第一印象は悪くなかったのだが、コレもセシルの影響だろうか? かなり距離感が近い。

 慕ってくれることは嬉しいことなのだが、とにかく距離が近い。物理的にも。


「ハイハイStopデスヨ~。所長は次もあるので、またその時にネ~」

「え~、セシルさんのケチ~」

「ケチってナンデスカ!!」


 セシルに一方的なブーイングがありながらも、彼等はそそくさと自分の持ち場に戻る。

 こう見ていると、仕事は熱心にこなしながら冗談の通じる場所なのだろう。こういう仲の良い職場は良くも悪くも長続きする。

 ある意味、セシルの人格的な教育の賜物なのだろうか?


「ありがとうな、セシル」

「Why?」

「いや何、君がいたからこの場所はより良い空気になっている。管制塔は今後このジャパリパークでは一番の生命線になる。君は凄いな」

「フッフッフー。そこまで褒められるとテレマスネ~」

「そう言う性格も君らしいな」

「そういう所長コソ、ちゃんと慕われて良かったでは無いデスカ」

「正直「医者ごときが」って怒鳴られるかと思ったよ」

「あー……」

「どうした?」


 セシルは、あちゃ~と言ったような表情で苦く笑いながらも額に一筋の汗を流す。

 そのやってしまった感あふれる顔についた口から、少しトーンの落とした声でセシルは言ってきた。


「Doctorだと、言ってませんデシタ」

「……言っておいてネ」



 コクトの巡回。

 次の場所は、ミタニの研究室であった。

 研究所内でセルリアンやサンドスターに関する成分解析や分子レベルでの調査。

 単純に言ってしまえば、部分に及ぶ精密検査担当だった。

 更に新薬開発にも取り組んで至りなど、化学観点からしたアプローチが多く繰り広げられている。

「さて、と……」

 扉の前に来て、コクトは一呼吸つく。


 最古参のミタニの研究室となると、彼なりに少し緊張する思いがあった。

 例え相手が自分の部下であろうとも、敬うべき先輩であることには変わりなく、薬学の博士を持っているミタニに対してはドクターとしても一目をおいているのだ。


「……、」

 予想以上に予想通りだった。

 扉を開けて目に入ったのは、黙々とデータの調査や計測器を使った検査。書類を纏めた者はミタニには渡されるが、一言二言を交えて終わる。


(……凄い、気まずい)


 せめて一言でも挨拶をすれば良いのだろうが、その一言が思った以上に出ない。

 各々が研究に集中しているのか、コクトに気がついていないようだ。


「……あ」

 ミタニが此方に気がついた。

 彼は何言か近くにいる研究員に告げると、此方へと歩み寄ってきた。

「すまない、待たせたか?」

「いや、大丈夫だ……うん」

「そうか、悪いが今は手が空いておらんでな、私だけでも現在の状態を教えておこう」

「……頼む」


 ミタニはコクトに説明しようと、まず研究室内を案内し始める。

 ミタニの後につくように説明を聞きながら巡回をしているコクトだが、研究熱心なのか喋らないのか、研究員は今だ黙々と調査を進めながら書類を作成し、更にその書類を見た研究員がそれを読み進めながら新たな実験に取り組む。

「……これは」

「気がついたか」

「研究員に各々研究を任せる……と言うよりは、研究員が書類を読んで更に自分なりのアプローチを掛けているのか」

「そう言う事だ。各々研究員は自分の成果を書類に残す。そしてその段階が終わると作成された書類に興味を持った者がまた別のアプローチを掛ける。各々それぞれ得意分野があるからな、それに反って己がしたいと思った実験をやらせるのだ」

「だが、それだと所々過疎が生じるのでは無いか?」

「いや、この研究だが時間分けされた形で行っておる。朝から日中までと、日中から夕方の二通り。そして夜組と入れ替わる三手順だ」


 研究所を無人にするのは、何かあったときのためにと言うことで夜勤制度をとっている。なので二四時間全ての研究所は稼働している状況下を可能にしたのだ。


「その結果、朝組は自由研究。残された書類から夜組は不足研究。昼の組はその両方、つまりは繋ぎの役割を担っているのだ」

「成る程、つまり各々が得意や好奇心に触れた物を率先として行う。残された書類の進捗状況を読み、更に其処にアプローチを加えられるようにもしているのか」

「その通りだ。無論夜組が不利になってしまうことも考慮に入れ、週入れ替えのローテーションで組んでおる。研究においても、一人では困難であれば協力したチーム体制を組んで挑むこともある」

「成る程、俗に言う効率化か」

「まあな。唯職場として言えば人付き合いも重要だ。だからこうして」


 ミタニが部屋奥まで行き、部屋全体を見渡せる場所まで来ると、研究員達の方に振り返り大声を発した。

「小休憩の時間だ! 手の空いている者は近くにいる者とバディーを組んで行い給え!」


 彼の言葉を耳にした研究員達は、止められる手を止めて近くにいる者と柔軟体操を始めだした。


「……コレは?」

「体が鈍っていてはしょうが無い。だからこうして各々体の固まった部分を解すようにする為に近くの者と柔軟体操を行うのだ。こうして少しでも近くの相手と距離を縮める。少しずつではあるが、互いを知る為の切掛程度でこれを行い始めた。ほら、コクト」

「え、私たちもするのか?」

「当たり前だ」

 二人は互いに背中をあわせ、引き合い押し合いで背中を伸ばすようにし始めた。

 半信半疑でありながらもとりあえず乗りで彼も行ってみたが、少し軽くなる感覚こそ覚えど、少々爺臭いような気がしていた。

「あ、少し楽になった」

「じゃろ、気分が良くなれば言葉も出る」

「ん? じゃあこれって」

「ああ、気分が悪い時や機嫌が悪い時などは、人は極力相手との干渉を拒む傾向にある。だから人と接触をし、気分を良くした状態になれば言葉の一つや二つは出る」

「ああ、そう言う事か」


 ミタニなりの考えなのだろうか、コツコツと重ねて行く方式なのだろう。

 自分が思い描くことの無いそう言う考え方は、時として素直に感心できる物でもあった。



 さて、次は研究所内最難関だ。

「……、」

 研究室前で立ち止まるコクト。

 既に中からは笑い声や話し声が断たない。

 最早、実家の親戚の集まり並に五月蠅い。


 ガチャッ

 扉を開け、中に入れば更に声は大きくなった。

「ッしゃぁ一位~」

「うわ、カイロさんセコい!」

「んなの勝てば良いのよ~……ってあッッ、甲羅ぶつけたの誰だ!!」

「お先で~す」

「んなろ!! だがバカめ! こっちはまだキノコが」

「バカやってんのはテメェだァァァァァァア!!」


 ガコンッッ!!

 振り下ろされた踵落としが、カイロの脳天に直撃した。

「っててて……あ、チース所長」

「こんちわー」

「チースじゃねぇよ!! 何ゲームやってんの、何ゲーム持ち込んでるの!? 何で此処に無い機材があるの!? と言うか、本当に何やってるの!?!?」

「いや~、休憩がてらマ○カ大会をね~」

「いや、本格的すぎるし! いやそもそも、言いたいことありすぎて訳わかんねぇぇぇ!!」

「落ち着きなよコクト~。ちゃんと理由はあるんだし」

「へぇ~……」

「まあ丁度良いな。ハイ皆~、休憩終わりだよ~。仕事戻れ戻れ~~」

「「「うぃ~っす」」」

(此処の連中ときたら……!!)


 各々用意されていたゲームハードなどをしまい込むと持ち場へ戻る。

 白衣こそ着ているが、カイロの影響なのか若干ラフさが目に映る。


「いや~、コクトちゃんの踵地味に痛い」

「あれ位するわ、研究室にゲーム持ち込みやがって」

「良いじゃん良いじゃん。休憩は思い切りすると良いの」

「まあ良いけど、此処研究室なのに無駄に娯楽多いよな」

 そう言いながら辺りを見渡すコクト。


 この場所はジャパリパークにおける象徴、サンドスターの研究を行うサンドスター管理研究室である。この場所では言葉通りサンドスターに関する分析が行われており、それも相まって施設は大分大きい。と言うのも、この研究室はサンドスターによる外界輸入された動物のフレンズ化も行われているので、そのためのシェルターや個体研究の為のミラー越しの観察室などを設けられている為、別棟に設立されているのだ。

 だが、会議室一角がゲーム大会会場になっていたり、場所によっては雀卓があったり、少し目を見張る物が多い……。


「まあでもさ~コクトちゃん。そんな無下に娯楽を制限なんてしちゃダメだと思うよ」

「ダメとは一言も言ってないさ。ただな、一言声くらい掛けてくれ。流石に驚くわ」

「お、じゃあ言っちゃえば何でも良いの!?」

「要件等」

「ちぇ~」

 コクトもここまでは言うが、結果を出せている割合で言えば実はこの研究室が一番大きいのだ。

 カイロの考えた研究室内の規律は「やる時はしっかりと、休む時も全力で」がモットーらしく、ある意味セシルとミタニの方針を合わせたような異例の研究室だった。

 だが、各々の役割を考えると皆が皆妥当の方針をとっていることは確かなのだ。


 常に稼働できるセシルの管制塔は情報の循環を命とし、

 此処事に緻密かつ精密に検査を必要とする精密研究室ではその集中力を高める考えを主とし、

 サンドスターという大規模な実態を計測するカイロの研究棟では常に一番の技量を発揮できるように切り替えを一としている。


 各々に役割があり、それに一番見合った方針をとる。

 そして、それが楽しいと思える現場にする。

 彼等三人は、コクトの注文に対して十二分の回答を提示してきていた。


「どう? 俺たちの研究室は?」

「……そうだな。まあ、良いと思う」

「……、」

「なんだよ?」

「コクトちゃんって、褒めるの下手?」

「なっ?!」

「いや~、面白いとこ見つけちゃったぜ♪」

「な、お前、言うなよ! 誰にも言うなよ!?」

「どうしよっかな~」


「言ったらゲーム機全部捨てる」

「職権乱用!!」

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