第一三節
黒斗の日程で一番困難を極めたのは面接だった。
本島の会場では希望者が続出し、その多さに熾烈を極めたのだ。
そして、もう一つの原因として、面接官が黒斗ただ一人という地獄真っ盛りルートだったのだ。
因みに面接形式は意外と簡易的なもので、グループでの自己紹介と自己PRの二質問後に幾つか面接官から質問するというものだった。
よりによって多大な希望者が出た為に、日程は朝昼晩休まずの一週間続いた。
そして……。
全ての日程を終えて、黒斗はやっとの思いでジャパリパークに帰還していた。
「だぁ~~~~!! 疲れた~~……」
柄にも無く大声で机に突っ伏するコクト。
数秒空気が抜けたところで、グワンッと糸を引っ張られた人形のように体を起こした。
「仕事しなくちゃ」
「いや休んでたら!?」
社畜魂を見せたコクトに対して、レイコはすかさず横からツッコミを出した。
今までの研究以上に疲労しているコクトを流石に見過ごせなかったのだろう。周りの目も最早哀れみでしかない。
「しかし、無茶するね~」
「まあな、ここまでしないと開園にも追いつけないだろ」
「で、いい人決まりそう?」
「まあ、優秀な人材は居るさ。……これから合格通知の書類作るんだけどな」
「お疲れ様デス……」
パソコンを起動し、人間離れしたタイピングを始める。
ここまで来るとお手の物なのだろう。
「だがまぁ、これで計画も順々に進められているわね」
「そうだな……。そっちはどうなんだ?」
「順調よ。研究所と事務所、社宅はすぐにでも完成するわ。テーマパークとかは後回しにしてるから、完成もまだ先になるわね」
「ホント、良くここまで早く進めてくれたね」
「そこは工事の奴らに礼を言わないとな。正直技術面でも助力がものすごい」
「案外助力したいって言う人は多いのよ。良い意味では世界初の超巨大合同施設の完成を見たい。悪く言えば援助を口実にコネクションを作りたいって事かしらね」
「後の言葉は目を瞑っとけ。早いなら何でも良い。他は私が対処する」
「いやあなたは休みなさいって……」
他愛も無い経過報告。
だが、やはり報告はそれだけでは済まなかった。
「あ、そうだコクトちゃん。やっぱ懸念してた通りセルリアンは他にも居たみたいだよ。それも大量発生」
「何、被害の方は?」
「まあ、各地のフレンズが対応してくれた御蔭で何とかなってるよ。でも、報告にはセルリアンの核部分が埋もれてたり、形が一定では無いとか大雑把。幸運にも強いフレンズが対応してくれたから良かったけど、今後の研究対象にはなるだろうね」
「そうか……。病院の建設も並立しよう。今後のことも考えると私一人で対応しきれるとは限らないからな」
「後はセルリアンについての研究施設かな」
「研究所ではダメなのか?」
「いや、これは別の方が良いかもね。何があるか解らないって言う以上、本島から離れた小島にでも作りたい」
「了解だ」
セルリアン問題。
こればかりは一番に頭を悩ませる議題だった。
今後のことも考えれば、奴らの研究も必須になるだろうからだ。
「ジャパリまんについてだけど、現在完成した工場でジャパリまんの大量製作を行っているわ。各地に分布してみたけど、結構好評ね」
「おー良かったじゃんジャパまん。動物たちに人気だったのなら研究のしがいもあったもんだね~」
「そうね、ジャパリまんの御蔭で食糧危機も去った訳だし、今後はジャパリまんの工場を各地に分配しても良さそうね」
「へ~、そうなんだ。ジャパまん」
「ええ、そうよ。ジャパリまん」
「ジャパまん……」
「ジャパリまん……」
……。
カーンッ!
「ねぇ、そこのチャラ男さん。やはりジャパリまんの方が語呂が良くて良いのだと思うのよね」
「そうでも無いよおばさん。ジャパリパーク饅頭を省略するんだ。ジャパまんの方が省略し甲斐があるじゃん。ジャパリまんなんて呼び方長くてしょうも無いと思うけどなぁ~」
「おばさん言うなチャラ坊主。どうせゆるっとした言い方が嫌いなだけでしょ。そっちの方が愛嬌がもたれるって知らないの?」
「誰がチャラボだよ三十路。今は愛嬌じゃ無くて普通じゃ無い呼び名が大事でしょ。ありきたりな省略名称よりも、ちょっとアクセントが外れた方が良いと思うんだけどね~」
カイロとレイコが和やかに、そして額には怒りマークを付けながら火花を散らしていた。
「え、えぇ~……良いんデスカ?」
「ほっとけ、下手に口出ししたら噛み付かれる不毛な戦いだ」
「さしずめ、キノコタケノコ戦争だな」
「ミタニさん。それ多分同列にしてはいけないと思う。最悪誰か死ぬ」
「Dead!?」
「真に受けんな真に受けんな」
火花散らす二人の口論は、仕事をほっぽり出して数時間続いた。
月は過ぎる。
コクトが見定めた研究員達に採用通知が送られる。
それと同時期に社宅が完成し、なだれ込むように研究員達が本島から移動し始めるだろう。
研究所と事務所も同じく完成したことにより、若手の研究員達の到着と共に五人の研究者も後日移動することになった。
「いよいよtomorrowデスネ」
「まあな。しかし……」
五人は、各々が事務に使っていた簡易事務所内を見渡す。
荷物も何も無く、事務机と椅子のみでガランとしたその光景は、懐かしくもまだ初めて顔合わせした頃を彷彿とさせていた。
「ここから、始まったんだな。私たちの挑戦は」
「案外早いはずなのに、長く居たような感じがするのな」
「そりゃそうじゃろう。何せ、苦難も困難もここで乗り越えてきたのだからな」
「そう、だったわよね……」
最初はギクシャクとした空気を出し、誰もが互いを「合わない連中だな」と思っていただろう。だが、この場所は、この瞬間まで紡いでくれた居場所でもあったのだ。
ここで研究が始まり、寝ずの作業は熾烈を極めた。ある意味で言えば、そんな寝不足によって彼等の見えない一面も見られた。互いの本音がぶつかり合い、意外と歯車はかみ合っていた。
無論、フレンズも無関係では無い。
結果的に言えば、この一つのコンテナと、彼女たちの出会いによって、我々の道は真っ直ぐ見えるものとなった。
「明日、私たちはどんな発見をするのだろうな」
「そうだね~。まぁでも、楽しいことには間違いないでしょ」
「案外、人が増えても変わらないこと多いんじゃ無い?」
「寧ろ、軽く仕事が多く増えることは解ってるじゃろうな」
「Berry HeavyなDailyにナリマス!!」
「そうだな。だけど……」
「案外アンタ達となら、それも楽しそうだ」
フッと、鼻で笑う。
そうすると、彼等は最後の手荷物を持ってコンテナを出る。
「……、」
四人が外に出て、コクトは扉の取っ手に手を掛けて再度振り返り中を見渡す。
その場所を見て、その一つのコンテナを見て、確かに少年は一言言える言葉があった。
――ここから、始まったんだな。
巡るは、数々の苦難困難と、バカなことをやった日々。
だがこれは終わりでは無い。
新しい明日が始まる為の、一時の別れ。
彼は惜しまず、誰よりも清々しく、その流すような眼で事務室に一言言葉を贈って扉を閉めた。
「……行ってきます」
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