第四節

「すっかり夕方だな……」

 コンテナの隣に車を駐車するコクト。カイロが降りて先に研究所内に戻ると、コクトも充電コネクタを車に差し込んで研究室の方へ歩いて行く。


「ん?」

 入り口前で、カイロは扉を開けたまま止まっているのがわかる。不審に思いカイロに近づきつつコクトも中を覗いてみた。

「何やってん、だ……?」


 中を覗けば、そこにはある意味奇々怪々な姿をした三人がいた。


「……なにやってんのお前ら」

「見た通りよ!」

 先陣切って立つレイコ。

 研究室内はのれんや幕などがとことん飾られており、手作りのような法被を着て仁王立ちしている彼女の姿と、嫌々な顔つきで旗を振っているセシル。オマケに黙々と作業こそしているがピンクの鉢巻きを付けたミタニまでいる始末だった。

 法被や鉢巻き、暖簾や旗にはそれぞれに「人員増加!!」「申請しろ!」「人の話を聞け」と訴えるには何処かお粗末というか、少々書き方が子供じみた訴えが書かれており、挙げ句の果てにレイコの法被には「このヘナチョコ総務」とまで、最早子供の悪口があった。

「……えっと」

「そろそろ人員増やしても良いわよね? 設備の話もしてるんだったらこのブラックな状況何とかしてくれるわよね?」

「あ、いやぁ……一応してるけどさ……でも、下手に増やしたところでこんな先の見えない状況じゃ呼んだところで」

「そう言うと思って、ちゃんと妙案も考えてあるわよ」

「お?」

 そう言ってレイコが取り出したのは一つの企画書だった。

 束こそ少く、数枚の紙にホチキスで留めた簡易的なものではある。

「これは?」

「少ないと思わない事よ。この数枚の紙切れに、この先の夢と希望が詰まっているんだから」

「見事に古くさいキャッチフレーズだこって……」

「カイロ五月蠅い!」

 ふむ、と一言い返すと、コクトはその資料を手にして中を見通してみる。カイロも横から覗くようにして中の内容を確認してみた。


「……、」

 そう。

 そこには確かに今後のこの島の活動方針が書かれていたのだ。その企画書を読んでいたカイロがムムムッと口を絞らせながら疑問を訴えた。

「これは……何?」

「今現在、摩訶不思議な実態が及ぼす影響に未だ危機的状況は無い。それに彼女たちは未知であっても害では無い。なら、人が獣と触れ合え、ましてや色の付いた少女達ならばもっと好感が上がるはず」

「アンタ公表向いてないだろ……色付いたって」

「良いじゃないの……カイロ、アンタも一々五月蠅いのよ」

 ふんっ、と鼻で巻き返すレイコ。

 黙々とその企画書の中身を見渡して、コクトは一息ついた。

「どうよコクト。中々悪いもんじゃ無いでしょ?」

「……そうだな、ある意味これは、良いかも知れない」


 内容は完結的でわかりやすかった。伊達に博士の評論会に顔出ししている訳でも無いのだろう。


 第一に人員の増加希望。

 この件に関しては言わずもがなである。

 第二に研究所の増設と施設の新設。

 以上同文である。

 そして、第三に。


 //提案、三

 //施設の新設に踏まえ、この島の建設目的を動物園と遊園地の複合巨大施設として此所に提案する。


「成る程、サファリ園にするって事か」

「そう言う事、フレンズとふれあい、施設を楽しむ。更に全世界の動物を引き取り、絶滅危惧種や現存している動物の全てを集結し保護する。ゆくゆくは世界きっての大型施設の完成よ」

「……、」

「どう? これ程の計画があるなら文句は無いでしょ?」

「ああ、そうだな、根負けだ」

 その言葉に、レイコは溜まらずガッツポーズを取ってしまう。

 この瞬間まで悩みあぐねた結果か、自身の夢の実現か、そうであってもそうで無くても、此所にこの島の行く末を決める決議が決定した。

 それも、こんなに呆気なくである。


 目の前で雄叫びを上げるレイコを余所に、カイロはコクトに小さく耳打ちをするようにして聞いた。

「(これも、お前の予想通りか?)」

 コクトは、一瞬呆けた顔をしながらクスリッと小さく笑ったあと、希少な微笑みのままでこう言った。

「さぁ、だけど、結果オーライさ」


「それで、そのPlanにはどう名前を付けるノデスカ?」

「ウェッ!? ……えーっと」

 不意打ちなセシルの質問に戸惑うレイコ。

「そうじゃな、フレンズ、サンドスター、であればこの計画にも名前を付けんとな」

「計画というか、この島にもじゃね? ホッポッてたけど、名無し島じゃ締まらねーじゃん」

「う、うーん……コクト、何か無い?」

「私に投げるなよ」

「えー、フレンズもサンドスターも、決めたのコクトのようなもんじゃん。またポンッと良い名前出してよ」

 コクトの顔が心底嫌だと言いたげな表情になっていた。それに今度は島の名前とこの計画に関してと来た。

(こっちはもう頭いっぱいいっぱいなんだけどなぁ……)

 コクトに至ってはこれから外部と連絡を取り人員と工事の手配をするのだ、一々そんな事を考えていられるかと言いたいが、締まらないのもまた癪だった。

「うーん……じゃあ、こんなのどうだ?」


日ノ本のジャパリ楽園パーク


「またPopデスネ」

「何で日ノ本でジャパリ?」

「殆ど語呂合わせみたいなもんだけどな。ほら、日本の日ノ本って、昔は日の下にある国って良い合わせだっただろ? 世界はいつだって太陽の下にあるって意味で、ある意味『世界』まあ、ジャパリに至っては日本ジャパンを言い換えただけだし、日本には変わりないかも知れないけどな」

「成る程ね~、でも良いじゃん。『日ノ本のジャパリ楽園パーク』計画」

「まあ、それで良いわ」

 鼻でフンッと上から目線のレイコに、最早もう文句を言う気は無い。ここまで来たら何処まででも行ってやる。そんな精神だった。


 だが、ある意味では其所に結束も出来た。


 世界中の動物達の保護を目的とし、

 アトラクションを兼ねて交流を可能として、

 人々に安寧と笑顔の時を送る施設計画。


 そして、島の名としても計画としてもその起源を忘れぬようにと願ったその名は……


日ノ本のジャパリ楽園パーク


 彼等はこの日、世界の未知への挑戦に、第一歩を踏み込んだ。

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