第九節
数日後。
ヘリの通信機を使い、本島との連絡によって彼は四人の研究員を此方に呼ぶことに成功した。現状危険性は無いこと。更には未知的現象の現地調査。これだけあれば数人の確保は造作も無かった。
更には物資の調達と予算の申請。
彼が提示した条件は、彼の説得によって最低限ではあったものの、着々と確保していくことに成功した。
ただ。
問題は此所からだった。
草原の大地の大きなコンテナの中に設立させられた一つの事務所。
「初めまして、私の言葉に賛同してくださった研究員諸君」
四画の事務机に、課長が座すような机が一つ。
四画には各々の研究員が立ち、課長席にはコクトが立ち語りかける。
「此所より、世界の未知を探求する者立ちに言葉を贈る」
其処に座すは、曲者揃いの研究員。
皆がコクトより年上であるのは見ても解る。
それでも彼は、その曲者を束ねるように、その一言を贈った。
「我々は此所より、世界の挑戦を開始する」
言葉に偽りは無い。
世界が、新たな領域へと足を踏み入れようとしているこの瞬間。
その第一歩を、彼らは今踏み出した。
「自己紹介をしておこうか」
コクトは彼らに向けて語り始める。
「私は獣医と医師を股掛けして行っている者で、名を銀蓮黒斗と言う。宜しく」
若干一六歳の少年から出るとは思えない発言だったが、異を唱える者は居なかった。
いや、唱えるとすれば此所からだろう。
自己紹介を終えたのを見計らうかのように、五人の中で最年長らしき男は声を上げた。
「では、僭越ながら私から行かせてもらおう。私は
言葉通り、化学と薬学を専門とした博士であり、五六と言う年齢であってもこの中ではベテランだろう。評論などメディアでも多く取り上げられており、未知の発見や立証できなかったという事実を立証してきたなどの逸話も多く、彼の名を知らない者は居なかった。
「
次に淡々と自己紹介をしてきたのは、研究所内唯一の女性であった。
女性学者にして、動物の調査や物理研究を行ってきており、現地調査を主に行ってきた博士の一人であった。
博士の中でも若手に出る彼女であったが、厳格な威厳と動物に対しての情熱は負けじと劣らぬ者だろう。
「私からはこんなものです。で、そちらのチャラチャラとした方は?」
「ん? 俺かい?」
言葉に反応したのはいかにも軽そうな男だった。
オールバックにサングラス。白衣の下はアロハシャツに短パン。素足にサンダルと研究員らしからぬ格好だった。
「俺は
見た目こそチャランポランとしてはいるが、歴とした考古学と病理学の専門博士だった。彼も二人目の若手ではあったが、技術はメディアでもミタニの次に紹介されていた程の人物だ。
発掘された化石などから考古学の視点で生活や過去の技術を割り出すことを得意とし、病理学に至ってはその時代の感染症や現在などでも応用されその知識を振るっていた。
だが、かなりの問題児でも在り、その見た目の性か同じ研門には良い目では見られては居なかった。
「ちなみにサーフボードが得意なんだけど、暇な時とかやって良いのか? まあ言われなくてもやるけどね」
「勝手にしたらどうですか? 水辺に変なウイルスでも蔓延していても知りませんが……」
「いやはや手厳しいねぇ~」
「これ、話はそれくらいにして、もう一人若いのが困っているじゃろうて」
「そうは見えないけどね~」
カイロはサングラスを傾けて最後の一人をニヤけながらに見つめる。その男は見るからにその五人の中でコクトのつぎに若手だった男だった。
とは言っても、気張る様子も無く、自由体と言うべき感覚で反応してきた。
「イエ、私だって日本の文化にはナレマセンヨ。申し遅れマシタ。私、
日本語がそこそこ出来る外人の男。
名は英語で
二六と言う四人の中ででも一番若手だが、若手の中でもキャリアは劣っては居なかった。レイコの生物学とは違い、動物と地質の研究をしており、彼もまた現地で解明を行う人種だった。新米扱いに対しても慣れているようで、寧ろ引けを取らぬその姿勢はまさに外国人と言うべきだろう。
全員の自己紹介を終えたのを見越したのか、カイロはコクトに目線を移して言い放ってきた。
「どうでも良いかもだけどさ、こう言うのって最年長の人が仕切るんじゃねーの? 別に一番乗りしたからって、アンタ最年少じゃん」
言い得て妙だろう。
なにせ一番偉い人間がいるであろう場所に、自分たちよりも年下の人間がいるのだから。
だがコクトとて考えが無いわけでは無かった。寧ろ、そう言われても何の問題も無い。
「別に私は別のものに兼任しても構わないさ。だが私は学者では無く医者だ。そうで無くても、雑務も併用するようなこの場所に居ては、君たちも研究に専念できないってものでは無いのかい?」
「言うねぇ~。でもそーだね。俺たちも変にお偉いさんと話すのは肩こるね」
「そういう点でしたら問題ありませんね。研究に集中したいですし」
黙して聞いていてレイコも、彼の言葉に異論は無いと唱える。他の研究者もまた同じく頷く。
コクトはこうなることを見越していたのだ。
何せこの場に居るのは研究狂いな曲者揃い。地位や名誉ほしさにこの席を欲する者がこの場に居ないのも、彼が研究者の選択をした理由の一つだった。
「さて、総務として言うのだとすれば、海洋から物資の調達を基本に行うので、申請は私に。急であれば飛行便も用意するので」
「ふむ、異議無し」
「私も異議無しです」
「面倒事やってくれるんだったらそれで良いわ」
「アリマセーン」
癖は跳ねる。
自分の目的しか無い連中。
だが、それで良いのだ。
多方向であれそれだけ熱心であるのなら、研究者として優秀なことこの上ない。
「では、我々の研究を、始めましょう」
真にそのプロジェクトは、今始まる。
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