第1257話「夏の向日葵畑で白いワンピースを着たなりきり女子高生と出会った話」

時刻は分からない。

けれど、僕の前には君がいる。

僕は夢(一般人が想定する将来の希望や願望を指す言葉。睡眠中に発生する現実体験的幻覚を指す場合もある)よりもずっと素晴らしい現実を知っている。


僕と君は土がむき出しになった坂道を二人で走っている。空は雲一つない快晴、汗ばむほど照り付ける太陽。きっと季節は夏だった。引きこもりがちの僕だから、すぐに息が上がってしまい、立ち止まって深呼吸をする。「ねえ、大丈夫?」少し前をゆく君が僕に尋ねた。頷いて、再び足を進める。

「あとちょっとだよ」

俯きがちな僕の視界に白い手が割り込んでくる。日焼け跡なんかこれっぽっちもなくて、木蓮の花びらを連想させた。汗で汚れたこの手が君を侵してしまうことに一瞬だけ葛藤してから、けれど僕は伸ばされた手を握ることにした。「ふふ」僕の指が触れると、君は小さく息を零した。

引っ張られるようにして三度僕は走り出す。転んでしまいそうになり、体勢を立て直そうとして自然と視線が上向く。肌と同じように清らかな脚が最初に見えてきて、白いワンピースの裾がそれを覆い隠す。穏やかな風を受けてふわりと揺れる栗色の髪。日差しを遮る大きな、これまた白い帽子。空の青に映える黄色い花飾りが付いていた。

走りながら、君に問う。あとちょっと先に何があるの? 君は答えずに僕の手を引くばかり。

走っていたのはほんの一瞬だったかもしれないし、酷く長い時間だったかもしれない。走る速度が緩んだ頃には、僕の心臓はばくばく脈打っていて、顔どころか全身がとても熱くなっていた。君の背より少し先に目をやると、上り坂はついに終わりを迎えようとしていた。君が何かを言う前に、僕はそこが「あとちょっと先」なのだと確信していた。君はぎゅっと握ったままだった僕の手をようやく離して、軽快に坂道を駆け上がった。乱れた息を整えてから、君の後を追いかけた。

坂道の先には、向日葵畑が広がっていた。

青、黄、緑が織りなす自然の風景。その中心に、白い君が立っている。君は僕に振り返ると、髪をかき上げて笑顔で言った。「わたしと君だけが知ってる、特別な場所」


――――、現実が途切れる。

だがいきなり長いレールガンを持った女子高生がやってきて、とにかくすごい攻撃で覚醒剤を追加投入した。

幻覚が混沌で塗り潰されたのでレールガン女子高生は舌打ちをして去っていった。

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