第2話 はじまりの一夜
柵を越えることはこの集落の最大のタブーとして"掟"の中でも特に厳守する物と伝えられていた。"掟"破りの罪としてはそんなに重い罰則が有るわけではないが柵の向こう側には"悪魔"が住んでいるという昔からの言い伝えがあったために集落の人間は柵に近付く事すらしない人間も少なくなく、中にはエルペのように"悪魔"を見たとうったえる者もいればその昔柵を越えた人間が行方不明になったという噂すらあった。
それもありこの集落から外に出た人間もおらず、そもそも外に世界がある事事態まったく知り得ない情報な為外に出ようという発想すら起こらなかった。
あの禁書に書かれたことは恐らく意図的に誰かが隠していた情報だ・・・つまり禁書を管理している人間の誰かが情報操作をしている可能性がある、一体誰がなんのために・・・
と言ってもあの森の図書館はこの集落が出来た時からあった物のために数百年前に意図的に禁書扱いにしてあの書庫に保管したのが誰なのかは今になっては知るよしもない事だった。
"掟"は古くから伝わるものであったためその"掟"に縛られているのは長老達も同じであるという、つまりこの集落で"外の世界"があることを知っているのは自分だけなのかも知れなかった。
僕としては悪魔を信じていたわけでもなかったことと、なにより外の世界"を知ってしまった事により日に日に"外の世界"を知りたいという好奇心と知識欲が大きくなっていき、いつしか柵を越えてやろうという思いが強くなっていったのだ。
そこで後日、柵越え作戦と銘打ちいつもの3人に声を掛けて一年に一度の祭りの喧騒の中での作戦実行を持ちかけた。
当然アレスは興奮ぎみに賛同してくれた
勿論トゥルエはいつものギャーギャーで大反対
ルムヤはと言うと何も言わなかったが顔が熟れはじめのりんごのように赤らめて興奮してる様子が伺える。
おそらく賛成なのは間違いないであろう。
結果多数決で作戦遂行が決まったのだった。
トゥルエとルムヤは来ないだろうと思っていたのだが当日二人はひょこっと現れた。何を言ったのか知らないが恐らくルムヤが言葉巧みに言いくるめたのだろうと伺える高揚した表情でトゥルエは意気込んでいた。
年に一度行われるお祭りはその時気になると最長老の家の前にある広場に簡易的なアーチ型のオブジェを立てて、そのオブジェを通って参加することが義務付けられており、何故かその日にオブジェを通らなかった者は長老達に後日呼び出しをくらうので、どんな事があろうと皆が参加する催し物だった。
「おーいトゥルエ!ルムヤ!早くこっちこっち!」
言語物理学を応用したカラフルな光と様々な音色が奏でられる祭りの最中アレスが二人に呼び掛ける
「わ!あの髪飾りかわいいなぁ、ルムヤ似合いそうだよ!」
肩より上で切り揃えた、白髪で綺麗な髪をしたルムヤが「うん」と一言だけ答える。
「早く儀式を済ませて作戦遂行が今日の最大の目標なんだから出店なんか覗いてる暇ないぞ!」
早足で人混みをすり抜け出店に気がとられそうになる二人に注意しながら最初の目的地へと進んでいった。
目指すは広場の中央に佇む御神木。
この集落や周辺の森の中の木と比べてみても一際太く高くどっしりと構えたこの巨体な樹木は虫や様々な生き物のの住みかにもなっているのか所々に穴があいており、日中の日のひかりを吸収している為なのか触れてみると少しだけ温もりのある立派な大樹だった。
その御神木はこの集落の中心に位置する守り神だ。
「ちょっと二人とも速すぎだよぉ」
息を切らしたトゥルエが額に汗を滲ませ膝に手をおき長い髪を地面すれすれで揺らしながら喉から言葉を絞り出していた。
「トゥルエが出店見ながらうろうろ走ってるから遅いんだろーが!みろよルムヤなんか汗一つかいてないぞ!・・・ってトゥルエと同じ運動量でなんでそんな涼しい顔してるんだよ・・・」
困惑気味にアレスが発言したタイミングで近くから整列の掛け声が上がった。
この祭りで行われる儀式がどうやらもうすぐ始まる様子で既に列ができ始めていた。
「とりあえず行くぞ、儀式を長老達の次に参列できれば人目を忍んで柵越えを遂行できるはずだ」
周りには聞こえないように小声で3人に問いかけるとルムヤだけが「ふんす!」と謎の掛け声をあげた。どうやらこの女、自分の次に柵越えに対し期待に胸を膨らませているのかも知れない。
そうこうしているうちに自分達の後ろにあっという間に列が伸びていく。
少しでも遅れていたら作戦に支障をきたす恐れがあったためとりあえず第一段階クリアと言えるであろう。
この儀式は最初、長老達10人にて執り行われる。
その後早いもの順10人一組で儀式をしていくのだが手順としては実に簡単なもので
1、10人が等間隔で御神木を取り囲む
2、両手を広げ手のひら側を御神木に向け、拳一個分ほど腰の位置から離して背筋を伸ばす
3、ゆっくりと皆と同じペースでその場で一周する
4、一周したのち二度手を合わせお辞儀をする
と、いうものである。
意味合いとしては『御神木様、我々はあなた様に御守りしていただいている代わりに忠誠を誓いこの身体を捧げる所存です、どうかこれからも末永くこの集落と民を御守り下さい。』
という事らしい。
特に何事もなく儀式を終えて足早に広場を離れ西の森へ向かおうとした時に後ろから声を掛けられ振り返った。
そこには一人の長老様がにこやかな笑顔で立っており最近の学業は順調かと問い掛けられた。
自分でいうのもアレだが自分は物心ついたときから物覚えが良く成績優秀だったため100年に一度の神童などと呼ばれる事も多々あった為に長老達にエラく気に入られていたのだ。
まずここはなんとか他愛もない会話で一刻も早く話を切り上げなければと考えているところに向こうからもう一人の長老が近づいて来るのが見えた。
「お~いジョンや、こんなところにおったのかお前の挨拶の番じゃよ」
と別の長老から呼ばれたことによりなんとか早めに切り上げてその場を後にする事ができた。
長老達はみな深緑のローブをいつも着用しておりフードを被り、皆が皆ひげを蓄えているため正直しっかりフードの中を確認しないと誰が誰か全くわからないのである。
唯一最長老だけは貫禄がありほかの長老達より一回り大きいので一目でわかるのだが。
あとは皆一般民衆とは違いジョンやケビン、ビルとかマイケルなど少し名前が変わっておりもしかしたら代替わりのときにその名前を就任しているのかも知れないなどと考えながら僕は三人の所へと走り戻って行った。
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