第1話 ちょっとの好奇心
ザワザワ キャッキャッ
「昨日のご飯お芋が美味しくて20個も食べちゃったもんねぇー」「そんな食べたらおならとまらないよー!」アハハハ
ザワザワ
「はぁ~最長老の話長いんだよなぁ」「なぁ知ってるか?最長老って400年ぐらい生きてるって噂だぞ」「はぁ?そんなわけないよただのジジイじゃん!」「うわひっでぇ!」
キャッキャッ
「聞いたか?昨日エルペの奴が西の森で悪魔みたって騒いでたぞ」「あ~聞いた聞いた、それで漏らしたらしいな」「そうそう、夢でもみたんだろうけどあいつほんと怖がりだよな~」
キャッキャッ ザワザワ
「今日の言語物理学のテスト最悪だった、ぜんっっぜんだめだった」「俺も全然勉強しなかったけど?」「ハイハイそういってお前はいつも点数良いから信じない事にしてるんで」
ザワザワ ザワザワ
「おーいみんな静にしろー!最長老の話が始まるぞー!」
リンゴを腕力のみで絞り飲むのは文字通り朝飯前と決め台詞をはくその教師はその言葉に嘘偽りをまったく感じさせないほどのガタイの良さで、素人目には雛鳥のオスメスほどに見た目の違いがわからない袖がない布切れを毎日着用していた。
そんなルーチンを好む我が担任の掛け声により毎月頭に始まる最長老の挨拶は"最低"30分以上は長ったらしく続くのでみんな飽き飽きしていた。
最長老の挨拶は毎回「君たちは天使だ」から始まる一文で締め括られる。
なのでみなはその言葉のみを聞き逃すまいと他の事を考えつつも耳だけは最長老の言葉へと傾けているのだ。
ここは500人ほどが住む集落。
周りは深い森に覆われていて数百年と受け継がれてきた家々は大きなため息ほどで倒壊してしまうのではないかと思わせるほどに軋んでおり、その古民家には現在200世帯ほどが生活している。
そんな集落はとある最長老を筆頭に計10人の長老が統括しておりとても平和に暮らしていた。
いくつかの厳重な"掟"はあるもののその"掟"さえ守っていればなに不自由なく暮らすことができるのだ。
自分の日課は学校で勉強を終えた後に、西の森の図書館で書物を読み漁ることだ。
「おーいーまた図書館行くのかよー!せっかく最長老の話が早く終わったんだからたまには遊ぼうぜ~!ほら、今日習った水素原子の真名を使えばちょっとしたイタズラ出来るだろ?」
「またアレスはそういうこと言って!そんなことしたら先生に言いつけるんだからね!だよねルムヤー!!?」
と、いつも泣き虫で騒がしいトゥルエが問いかける。
「私はあんまり関わりたくないから勝手にやってどうぞ」
この騒がしい奴等さえ居なければ最高の週末を送れるのだけど・・・
「こないだ習った酸素原子の真名と組み合わせれば水が生成できるぞ、個数とベクトル詠唱の基礎はこの本に書いてあるから上手くいけばまたエルペの股間を湿らせてお漏らししたように偽装することはできるかもよ?」
「お!まじか!その話乗った!!」
「ちょっと!メレクまでそんなこといって!絶対にそんな事したらだめー!だよねルムヤ!!?」
「私はあんまり関わりたくないから勝手にやってどうぞ」
そう思いながらも生まれたときからのよしみ、会話に参加しないはずもなく自分からイタズラを提案してみる。
今日は図書館には行けそうにもないと思うと残念な気持ちもあるが、習った事の応用を実践できるかもというワクワクは書物を読み漁ることでは得られない知識欲と好奇心を満たす抑揚を期待できるので嫌いではなかった。
「まーたお前たちか!いっつもいっつも下らないことやりやがって!新しく知った知識を試したくなることは分かるぞ、好奇心を抑えらねいこともまぁ分かる。だけどな、もっと良いことに使おうとは思わんのか!!」
結論から言うと、見事にバレた。まぁ今日習ったことをあんな分かりやすく行えば当然なことだ。
しかし自分は怒られるまでがワンセットだと思っている。失敗こそ人間は成長するチャンスなのだ!
・・・とこの間読んだ書物に書いてあったのでついでにそれも実践してみただけなのだが。
アレスに作戦の指揮を任せた結果こうなったのだ、まぁこうなるためにアレスに指揮をさせたのだが。
「先生ごめんなさぃいいい~エグッエグッわ、私は止めたんですけどメレクとアレスが~エグッエグッねぇルムヤそうだよねぇえあええエグエグッ」
「私はあんまり関わりたくないから勝手にやってどうぞ」
「そればっかりじゃん~ウエエエン」
誤算と言えばこの二人が何故かこのイタズラに参加したことである。正直一番乗り気だったのは口数の少ないルムヤだったと察してはいたのだがトゥルエと共に帰ると思っていたから意外ではあった。
好奇心に刈られ西の森の柵を越えようと提案した時もそうだった。
あれはとある日のテスト終わり、いつものように森の図書館で夕涼みがてら自分の欲の赴くままに読書をしていた時だ。
本に集中しすぎて外ではもう夜虫が鳴き始めている事に気付き、ふと顔をあげると普段は絶対に鍵のかかっている禁書が封じられている書庫の扉が開いていることに驚いた。
周りを確認してみたが周辺には誰もいなく普段から禁書に興味があった僕は思わず足を踏み入れていた。
禁書を閲覧することは"掟"に反することではあったのだがこんなチャンスはないと思い気づくと一冊の書物を手に取っていた。
埃まみれで強く握っただけで朽ち果ててしまうのではないかと思わせるその書物には僕の知らない、発想にすら至らなかった"外の世界"の事が書いてあった。
何故森の外に世界が広がっているという発想にすら至らなかったのかはこの時には疑問にも思わなかった。
その禁書は絵のような物がメインで構成されておりその絵のようなものの横に少ない文章でその絵のようなものの説明がされていた。
その禁書によるとどうやらこの世界には"海"や"湖"、"火山"や"宇宙"など僕の知らない場所の数々が存在するということが記されていた。
あんなに胸が踊ったことは後にも先にもあの時だけだっただろう。
読み進めるうちにとある感情が芽生えてしまった、あの森の柵を越えて少しだけでも"外の世界"を見てみたいという感情が。
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