ウインドミル
あらゆらい
第1話 ウインドミルと十五センチ
通算百三十五回目の失敗だった。
風の強い展望台で少女は待ち続けた。
それは、遠く離れた向こうから父が投げた物の事だった。
『どうだった「ウインドミル」はまっすぐ飛んだか?』
手渡されたトランシーバーから聞こえてくる声は結果とは裏腹に
「ううん。えっと……途中で急にガクンってなった」
まだ、幼い少女はそれをうまく伝える言葉を持ち合わせてはいなかったが、それでもなんとか知っている言葉や表現で伝えようとしている姿は可愛らしい。
「なるほど、やっぱり無駄な力が流れているのか?」
逆に少女には理解できないような難解な言葉をブツブツと呟いていた。
因みにであるが「ウインドミル」とは現在飛ばしている紙ヒコーキの名前である。
少女の父の挑戦は百三十六回目に入ろうとしていた。
父の挑戦ーー。
それはこの展望台から谷を挟んで反対側の展望台に紙ヒコーキ……もといウインドミルを到達させるという試みである。
山と山が近く、この展望台も200メートルくらいしか互いに離れていない。だが、紙ヒコーキを届かせる距離にしては200メートルくらいなどとは言えないだろう。
実際、当然のように135回目全て失敗しており、しかも大体が中間地点で力尽きていた。しかし、当の挑戦者は「だからこそやるんじゃないか」とでも考えているのか、内に秘めた活力と情熱はとどまる所を知らない。
そして、百三十六投目。
「ーー!」
溢れんばかりの情熱を一体を誰かが見ていたのだろうか?
『お!』
二人の祈りが通じたのか、はたまた風の気まぐれか。突然に今までにないくらいに優しくも強い風が吹いた。
機体を後ろから押すだけではない。下からも優しく持ち上げるような風。
その力により、機体は安定した状態で空高く飛び上がる。
『こりゃいけるんじゃねーか』
父がそう口にするのも不思議ではないくらいに高くはばたいた。
そして、最高点へたどり着くとバランスを崩すことなく、少女に向かってゆっくりと滑空する。
少女は思わず前に足が出た。
一センチでも前に行きたくて思わず足が動く。
『おい! 落ちるんじゃないぞ』
父の忠告もなんのその。展望台の柵にしがみつく様にしてウインドミルを凝視する。
五〇メートル、三〇メートルとこちらに迫ってきていた。
徐々にその機影も少女の瞳に明確に映る。
しかし、一〇メートルの地点で怪しさも分かる様になる。
ウインドミルは徐々にバランスを崩し、どこまでも飛ぶかと思われた機体も速度と高度を急激に下げつつあった。
そして、少女からたった一メートルの地点。
再び風の気まぐれかなのか。
横槍を入れる様にして風が吹き、大きくバランスを崩す。
いくつも積んだ積み木が、突如崩れ出す様なそんな感覚。
僅か柵の手前一五センチメートル。
目の前を
その距離に、未だ少女は
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