閑話 2人の過去
サクッ!!ジュわぁ...。
「それにしても本当に美味しいわねこのオーク肉。もとが女性を犯す事しか脳が無いあの豚だと想像ができないわ。」
俺たちはいま、〈リデュース(元に戻す)〉で食べられる状態にした、[高級なオーク肉]と[みずみずしいキャベツ]を使ってトンカツを作り、夕食を食べている。
「オークが食べられるとはラノベには書いてあったけど、実際に口にしてみると本当に豚肉にしか感じないな。」
とオークカツに舌鼓をうっていると、モミジが突然、昔の話をしようと言い出した。
「いいのか?お前にとっては思い出したくも無い過去だろ?」
「いいのよ。あんたがその時どう思っていたのかも知りたいし。」
「わかった。じゃあ小学校のあたりから話をしようか。」
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~10年ほど前~
僕は大橋 常也、9歳。僕には最近好きな人がいる。その子の名前は柊 紅葉ちゃん、でもその子は女の子たちにいじめられているんだ。
僕はたまたま見ちゃったんだ。放課後の教室で同級生の女の子を中心に女の子たちから、
「死ね!!」
「学校来るんじゃ無いわよ!!」
「可愛い子ぶって、どうせ性格は悪いんでしょ!!猫かぶってるんじゃ無いわよ!!」
などと延々と暴言を吐かれていたところを。
そしてその時暴言を言われて、泣いている女の子の顔を見ちゃったんだ。
「可愛い...。」
そして数秒後には怒りが湧いてきたんだ。そして同時に恐怖も湧いてきちゃったんだ。僕がこんなことをして、逆にあの子のイジメが大きくなっちゃったらどうしようかと。そして恐怖に打ち勝てなかったその時は見て見ぬ振りをしてしまったんだ。
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私は柊 紅葉。
自分ではわからないのだけれど、私は可愛いらしい。全くもってこの地味な私のどこがいいのか...。
それでも私はモテた。小学校二年生に上がって一ヶ月が過ぎた頃、2つ上の同じ町内の男の子からラブレターをもらった。当然付き合うつもりもなかったから断ったけど。その後も何人かに同じようにラブレターをもらった。当然断ったわ。
そして3年生になってから二週間ぐらいだった頃、学年一格好いい人と呼ばれる男の子からももらった。大変喜ばしいことだったけれど、私はあんまり興味がなく、その男の子の申し出も断ってしまった。これが全ての始まりだった。
断った数日後、私は放課後の教室に呼び出された。「また告白か、でも行かないと相手の子にも失礼だから行くしかないよね...。」と思いながら教室に残っていると同級生の女の子と他学年の女の子たちが教室に入ってきた。中には仲の良かった子もいた。
「どうしたの?紅葉ちゃん。こんな遅くまで教室に残って。また告白されるの?」
と意地の悪い笑みを浮かべながら聞いてきた。
「ーーッ!!」
気づかれていないと思っていたことがバレていて、ここに呼び出したのがこの集団だったことに気づいたのだ。
それから帰るまで『死ね』だの『学校来るな』だの色々な暴言を吐かれた。暴言をいい終えた子達は「チクったらどうなるかわかってるよね。」と釘を刺し帰って行った。
その出来事があってから数日後また放課後教室に呼び出された。
ビクビクしながら待っていると
「おっ!ちゃんと残ってたか。よしよし。」
と、いつもより一段と気味の悪い笑みを浮かべながら頭を撫でてきた。
「もう...やめて...。私が何をしたっていうの?」
「はぁ?お前、自覚ないのかよ。男どもからチヤホヤされて調子に乗ってるからだろうがッ!!」
バァァァン!!
私の言葉に苛立ちを露わにした集団のリーダーらしき女の子は私の机を蹴り上げた。
「そんなこと...ない...。ヒック、ヒック...」
「あーもう!すぐに泣きやがってこんなことされたくないなら学校来なけりゃいいんだよ!!当然チクろうとするのは無しな。そんなことしたらお前の家まで行って、お前を連れ出し、ボコボコにしてやるからな。」
するとーー
「もうこんなことはやめてあげなよ!!」
と怒りを露わにした男の子が教室に入ってきた。
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僕はあの一件から、あの子がどうなったのか気になって仕方なくなってしまっていたんだ。
「もしかして、今日もやられたりしてるのかな...。」
と思い、今日放課後残ってみることにした。すると
バァァァン!!
机が倒れた音がした。そして急いで教室を覗くと、案の定暴言を吐かれていた。
僕の怒りのゲージはとうに振り切れ、気づいた時にはドアを開け、こう叫んでいた。
「もうこんなことはやめてあげなよ!!」
すると、
「はぁ?何の事?私この子とお話してるんだけど。」
「なんか私たちしたっけ?」
と何も知らないかのように女の子たちはとぼけた。
「とぼけるんしゃない!!前にもそうやっていじめていたじゃないか!!」
と、僕が言うと、
「へぇ。あの時見てたんだぁ~。なのに助けようとしなかった。それはなんでかなぁ~。」
と、とぼけた時の表情とは一転してニヤニヤとした表情を浮かべ、聞いてきた。
「そっ、それはっ...。」
僕が言葉に詰まっていると、
「いいよいいよ、別に言わなくても。自分の身が大切だったんでしょ。そう言うのは"偽善者"っていうんだよ?」
そう言った後、他の女の子たちと一緒にニヤニヤしだした。するとーー
「お前たちここでなにをやっている。」
と先生がやってきた。すると僕に偽善者と言ってきた女の子が、
「せんせぇー。大橋君が柊さんをいじめていました~。」
と僕に罪を着せようとしてきた。
「なに!?本当か柊!!」
と先生が柊に聞くと
「ほん...とう...です...。」
その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。そして柊さんの顔を見てみるといじめていた女の子の顔を見ながら怯えていた。
「大橋!!ちょっとこい!!」
と先生は僕の腕を掴み廊下に連れ出そうとした。そして振り返り、柊さんの顔をみると、申し訳なさそうな顔をしてこちらを見ていた。そしていじめていた女の子たちはこちらを見てニヤニヤしていた。
その後のことはほとんど覚えていない。柊さんに裏切られてしまったことと、あのニヤニヤする女どもの顔が思い浮かんだからだ。先生にしっかり話してもあれだけいると多数決的に僕がいじめをしたという風になってしまった。
翌日教室に入ると
事情を知らないクラスの子たちは僕から距離を取り、いじめられた。
その数ヶ月後、親がみるに見兼ねて転校を勧め、隣の市の小学校に転校した。
そして僕は、
「モブになろう。いじめの対象にならず、なにもかも平凡になろう。もう"友達"なんていらない。少しだけ話す"知り合い"だけがいるだけでいい。」
とそう誓った。
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常也くんが転校した後も私のイジメは続いた。
あいつらは
「あんたのせいであの子転校しちゃったねぇ~」
といちいち言ってくるようになった。
そして私は
「もう常也くんだけしか信じない。たとえ常也くんが私を恨んでいても。」
と思うようになった。
~そして8年が過ぎ~
高校の入学式の時に常也くんの姿を見つけた時、私は嬉しさのあまり涙をながした。
しかし彼はあの時助けてくれた正義感溢れるような姿ではなかった。
彼は光の影に潜むモブになっていた。
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「ーー。とまあこんな感じかしらね。今更になるけど、あの時は本当にごめんなさい...。私のせいで転校して、性格とかも変わっちゃったわけだから謝って済む問題じゃないことはわかってる...。信頼して貰えなくてもいい。あなたについていかせて...。」
「いいよ、もう。ただ完全に僕はモミジの事を信じることはできない。でも、君をここにおいていくつもりもない。今だけだ。ついていきたいならついてこればいい。信じて欲しいなら行動で示すことだ。」
と厳しめの言葉をかけるとモミジはしゅんとした顔で、
「うん...わかった...。」
と言ってきた。何となく気まずい感じがした俺はモミジをからかってみることにした。
「......にしても、僕のことしか信じないねぇ~。(ニヤニヤ)」
「なっ!あんたも人のこと言えないでしょ!!もう10年も前だけど私のこと好きだったんでしょ!!...でもまぁ今でもその気持ちでいるわよ...?」
と顔を赤らめながら言ってきた。そんなモミジの様子に俺はからかうどころか逆に爆弾を落とされた気分だった。
「お、おう...。なんか面と向かって言われると恥ずかしいな...。」
「わ、私だって恥ずかしいわよ...。」
「そ、そうだよな。」
「う、うん...。」
「「.........。」」
と俺たちのなんとも言えない恥ずかしさの空気のまま、夕食の時間は過ぎて行ったーーー。
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