──幕間──
手紙
親愛なるセレネへ
生まれて初めて手紙を書きます。だから変なところもあるかも知れないけど、大目に見てもらえると嬉しいです。
多分、怒ってるんだろうなあと思います。申し訳ない。謝ります。土下座してます。
レオンハルトは俺に無理やり巻き込まれただけなので、どうか怒らないでください。全部、俺のわがままなんだ。
俺は英雄じゃなくて、英雄の従者でした。英雄は持病があって、元々長く生きられない人だった。ぎりぎりまで頑張っていたけど、魔王を倒す一歩手前で彼は病につれて行かれました。
俺は彼に頼まれて、魔王を倒した。世界を守るとか平和のためとか、そんなことちっとも考えてなかった。魔王を倒して、英雄が必要なくなって、それで終わりだと思ってた。
まさか、「魔王にならなきゃ世界が滅ぶ」とか言われるなんて、予想もしてなかった。
きっと、他の魔王もみんな、俺と似たようなものだったと思う。
成り行きで魔王になったものの、それからどうすれば良いのか全然わかりませんでした。
あいつならきっと魔王になると思ったから引き受けたけど、俺には命を掛けて世界を守るだけの理由なんてどこにも無かった。
夢で人の死を予知する俺は、親兄弟からも忌み嫌われていたし、神聖教会でも呪いの子とか言われてた。優しくしてくれたのは英雄ぐらいだったけど、その彼ももういない。
俺のことを馬鹿にして、嫌って、粗末に扱うような連中のために、どうして俺が命を掛けなきゃいけないんだって思ってました。
俺の前の魔王は「魔王の役目から逃げて力を世界に解き放っても良い」と言っていた。何度もそうしようかと思ったけど、ぎりぎりで思い留まりました。
皆が忌み嫌った俺に唯一優しくしてくれた英雄に、頼まれたことだったから。
何をすれば良いのかわからなくて途方に暮れていた時に、セレネの夢を見るようになりました。最初はまたいつもの予知夢だろう程度に考えてた。二度目はそっくりな人がいるんだろうなって思った。三度目、四度目になると、さすがに変だなって思うようになった。
そのうちに、もしかしたらこの人は同一人物で、もしかしたらまだ間に合うのかも知れないって思うようになりました。だから、セレネを探そうと決めました。実際には、俺は間に合ってなくて、何もできなかったけど。
でも、セレネに会ってから、少しだけ夢を見るのが怖くなくなったんだ。
セレネは、俺との約束を守ってくれるから。
これから、あの水晶を使って魔王を封印します。
万が一失敗したらレオンハルトが後を引き受けてくれることになってます。勝手なお願いだけど、もしそうなったら、今度はレオンハルトの力になってくれると嬉しいです。
一応、俺なりの勝算はあります。
魔王の力が溢れて、世界が滅びるようなことになったら、俺は多分その夢を見ると思うんだ。
まだそんな夢を見ていないから、少なくとも世界が滅びることはないと思う。
俺が十年間、頑張れたのも、狂わずにいられたのも、セレネが傍に居てくれたからだと思っています。
本当にありがとうございました。感謝しています。
もし、俺が魔王を終わらせることができたら、褒めてくれると嬉しいです。
ライアン
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます