――幕間――
魔王の話
さて、少年。
俺が魔王になる前、何だったかわかるか?
わからないよな、当然だ。
笑えることに、なんと俺は世界を救う英雄様だったのさ。何処ぞの遺跡に封印されてた英雄の剣を引っこ抜いちまったばっかりにな。お前も似たようなもんだろう?
訳もわからないまま英雄だの救世主だの言われて…………そのうち何でかわからんが俺もその気になっちまった。俺しか世界を救えないってな。
で、だ。必死こいて魔王を倒して、これでやっと村に帰れるって時に、魔王が笑いながら言いやがったんだ。
「次の魔王はお前だ」ってな。
ふざけんなって思うだろう? でも、どうしようもないんだってさ。
俺だって、俺の前の奴だって、魔王になんかなりたくなかった。
魔王さえ倒せば世界は救われて、俺はただの村人に戻れるんだって思ってたのにな。
…………魔王ってのは、ただの「器」らしい。
魔物を従えたり、災厄を振りまいたり、ましてや世界を滅ぼそうとしている魔王なんてどこにもいなかった。
そりゃそうだ。元は世界を救うために奮闘してきた英雄なんだから。
だが、魔王の身体には、一瞬で世界を吹き飛ばすほどの力が封印されている。だからどんな傷でも死なないし、歳を取ることもなくなるんだ。
こうやって英雄の剣でぶった斬られるまでは、生きてなきゃいけない。
まったく、面倒だよな。魔王の血を舐めれば力が得られるとかで、魔物はわらわら寄って来るしよ。
本当、これでも結構苦労したんだぜ?
人間の身体ってのは弱っちいから、どうしても封印したはずの力が漏れて来ちまう。
だから器が、魔王が壊れる前に、次の器に移さなくちゃいけない。
そこで、世界を救うための英雄様のご登場だ。
どうだ、笑えるだろう?
魔王になってまずやらなきゃいけないことは、英雄の剣を封印する場所を探すことだ。
なに、難しく考える必要はない。その時が来れば勝手に英雄様が来て勝手に剣を引っこ抜いて、ちゃんと殺しに来てくれる。そういうもんだ。
…………ああ、そうだ。自分を殺すための道具を自分で封印しないといけないんだ。きっついよな。俺も覚悟を決めるまで十年ぐらい掛かっちまった。
まあ、壊れ始めちまうと、「早く殺してくれ」って思うようになるんだが。
魔王を継ぐことを放棄して、力を世界に解き放っても別に良い────俺の前の奴は、そんなことも言ってたな。
でも、そうしたら世界がどうなるかはわからないんだとよ。
もしかしたらその瞬間に消し飛ぶかもな。跡形もなく。
俺は魔王を継ぐことを選んだが…………お前がどうするのかは、お前が決めろ。ま、選択肢なんてあってないようなもんだけどな。
(…………それじゃあ、俺はもう死ぬぜ)
(まあ、せいぜい頑張れよ)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます